第6話:政府内観光ツアー 『二天』
朝7時。極めて清々しい気持ちで起床することができた。身支度を整え、部屋の小テーブルに置いてあるガラス製の容器から、冷たい水を一気に喉に流し込む。ふふ、部屋の散策等をしながら朝を楽しむのも悪くはな(ティントーーーーーン……ティントンティントンティントンティントーーーーーン!!!)うるっさ!!!!!
「こーとーはーさーまー!!!おはようございまーーーーーーーす!!!朝ですよーー!!お支度はできておられますかーー!!ツアーですよー!!!観光ツアーのお時間でーすよー!!!!」
「ぬぁぁあ…………五月蝿いですよ翔子さん………」
やめてー!呼び鈴連打して鳴らすのやめてー!朝っぱらから心臓に悪いよー!マナーも悪いよー!
心の中で文句を垂れつつ、私は部屋を出て上階に上がり、『星の揺籠』のドアを開けてあげた。
「……………おはようございます、翔子さん。先ほども言いましたが、五月蠅いので呼び鈴を連打するのは止めましょうね。特に朝。」
「ああ!ごめんなさい……観光ツアー自体、久々なんですよ!だから、つい興奮してしまって………」
「はぁ………そうですか。」
この人は朝からハイテンションだなぁ………もう少し抑えてほしい気もする。
「それでは早速出発し…………あれ?言葉様、自力で立っていてお辛くないのですか?車椅子は………」
「必要ありません。………なんか一晩寝たら元気になってて。体力も万全の状態なので、普通に歩けます。」
「………えぇ!?……そういえば顔も昨日と比べて心なしかふっくらしているような………」
「生命の神秘…………ってやつですか。人間の回復力って凄いんですね。」
「あはは!ほんと、とんでもない回復力をお持ちですね言葉様は!任務での戦闘にも耐えられそうで何よりです!」
「戦闘はちょっと………ご遠慮願いたいものです……」
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「星河天は、直径10㎞に及ぶ大草原と少しの都市から成り立つ区域です!参考にしたのは千葉県のとある草原地帯らしいですよ!星空が良く見渡せて、気持ちのいい風も常時吹いてくるので首相の散歩コースとしても良く使われるそうです!」
「散歩コースて………あの人、一応日本のトップなんでしょう?暇人臭が……」
「この区域の中央に都市部が集中しており、ど真ん中には『星の揺籠』があります!都市部はさっき通ってきたので、イメージはしやすいかと!」
聞いちゃいねぇよこの人………
「………都市部はまるでゴーストタウンでしたね。私達以外には人はいないんですか?」
「あーそれはですね、昨日言ったとおり、言葉様にはまだ眷属がいないからなんですよ。『星の揺籠』には言葉様と側近しか入れないと言いましたよね?」
「はい……あ、そうなると側近以外の眷属の生活場所が無いですよね………と、いうことは。」
「そうです!通常の眷属、もしくは隊に入れないほど力の弱い、一般人に限りなく近い能力者は皆あの都市部に住む事になってるんですよ!」
「で、未だ眷属すら見つかっていない私の区域はゴーストタウンになっている、と……」
なるほど………しかしあの都市部はあまりにも寂しいなぁ。早く私の眷属、見つかるといいなぁ。
「………そういえば、眷属ってどうやって見つけるんですか?そもそも始祖者だってなんで存在するのか………」
「始祖者は2041年以降、稀に見つかる存在としかわかっていないんですよー。始祖者が発生してから、その力の余波を受けた眷属達が増えていくーって事はわかってるんですけど………見つけ方は簡単ですよ!側近の場合は始祖者の次に力が強いので首相が感知する時もありますし、普通の眷属でも巡回してればホイホイ見つかるんですー」
「へぇ………」
そこで会話は終わり、美しい星空を見上げながら私達は無言で次の目的地へと向かった。
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「陽昇天は、星河天と同じく直径10㎞規模の区域です!昔の日本………その中でもとりわけ特徴的な建造物、『ジンジャ』をイメージして作られたそうですよ!また『ジンジャ』は昔の日本において神聖な場所であると考えられていたそうですー」
「なんかこれ…………赤いやつ………めっちゃ連なって建ってるんですけど………」
「ああ、ええと……これは昔の京都にあった『センボントリイ』と言われる情景を参考にしてるそうですよ!ちなみにこの赤いのが『トリイ』と呼ばれる『ジンジャ』のシンボルです!」
「本当に1000本あるんですか?」
「さぁ………どうなんでしょう、数えたことないので!」
「えぇ………」
脳に覚えさせられた知識上の現在の日本と比べると、なるほど確かに古風な感じがする。
星河天区域とは違い、活発に人々が生活している様子も新鮮だ。
「さて、それではここの……太陽の属性を司る『陽緋隊』の始祖者に会っていきましょうか!」
「え、観光だけじゃないんじゃ……」
「何をおっしゃいます!これから言葉様は星河天にお住みになる……つまりこことはお隣さんになる、ということ!それに合同作戦等で一緒に戦うかもしれないじゃないですか!挨拶をしないほうが不自然ですよ?」
「う……正論ですね。わかりました、挨拶しに行きますよ………」
「その必要はありませんわ。」
「じゃあ早速この階段を……え?」
凛と響いた少女の声。私とは違う芯の通ったその声は、私達のすぐ上から聞こえてきた。
空を見上げると、5人の影が目に入った。
………空を飛んでる!?
「ようこそ私の管理区域へ。星の始祖者、星夜見 言葉さん?風情を感じる昔の日本風景は気に入っていただけまして?」
「あ………ええ、素敵な場所だと思います。」
「あら………そちらから出向いていただけるとは。手間が省けて私としては嬉しい限りです。………ところで、何処で言葉様の事をお聞きになられたので?」
「ふふ、お医者のお爺様方が興奮してお話になられていたわ。あとは……私の眷属達が勝手に情報を収集してきてくれただけ。」
「はあ………やはりあの老害共、処断したほうが良いですね。首相に掛け合ってみることにしましょう。」
「ものすごい勢いで私のプライバシーが侵害されている気がするんですけども?気のせいですかね?」
とん………とゆっくり、声の主が地面に降り立つ。見た目は……私と同じか若干若いくらいかな。艶やかな黒髪黒目。私が言えたことではないが、赤と白を基調とした不思議な服を身に纏っている。
「改めて、初めまして言葉さん。『陽緋隊』が隊長にして始祖者、陽緋 天照と申しますわ。以後、お見知りおきを……………あぁ、この服装が気になられて?これは神を祀る者が着ることの許される特別な装束………一般に『巫女装束』と呼ばれるものですわ。」
「………星夜見 言葉です。よろしくお願いします。」
「お隣さん同士、仲良くしましょうね?」
「私と翔子さんの会話、聞いていたんですか………」
これまた濃いキャラがきたなぁ………
にこやかに私と握手を交わす天照さんに内心げんなりしてしまう。
「こちら、私の側近の4人ですわ。貴方達、ご挨拶なさい。」
「………浄玻璃 琴乃助だ……です。…いいか?天照様に無礼を働いたら例え始祖者といえど容赦はせぬぞ。」
「浄玻璃 鳴内ですよ〜、言葉様可愛いっすね!趣味はなんですか?僕とデート行きません?」
「浄瑠璃 初ですうう………よっよろしくお願いしますっ……」
「浄瑠璃 粉雪です。言葉様、天照様は大変な恥ずかしがり屋でいらっしゃるのでこのような尊大な態度をお取りになるのですが……お許しくださいね。良いお友達になってあげてくださいませ。」
「あっこら粉雪!余計な事は言わなくていいのー!!」
うっ………濃い……!側近までキャラが濃い………!浄玻璃の性を名乗った2人が男性、浄瑠璃の性を名乗った2人が女性だ。どちらも10代後半から20代前半の若さに見える。
「ゴ、ゴホンッ!………兎に角、言葉さん?次に会う時は歓迎会の時だろうけど……遠慮せずにここに遊びに来てもらっても全く構わなくてよ?」
「………素直じゃないですねぇ。」
「鳴〜〜〜〜内〜〜〜〜!!」
「はーいはいはい天照様の仰せのままにー」
「折角体裁を保ててるんだから余計な事言わないでって言ってるじゃない!!」
体裁、保ててませんよ天照さん。
ポカポカと側近を叩いている(全く痛そうに見えない)天照さんに軽く別れの挨拶をして、早いとこ次の区域に向かうとしよう。時間は有限だ。
「では天照様、我々はこれで失礼いたしますね。」
「はぇ………?もう帰るの……?」
「……ごめんなさい天照さん。……また遊びに来るから。もう行きますね。」
「……………!!……ええ、またいらしてね!」
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「……人間嫌いで有名な天照様にしては本当に珍しいですね。初対面の相手にあそこまで自分をお見せになるなんて。」
「んふふ、そうでしょ琴乃助!言葉さんは何故か嫌いにはなれなかったのよ!不思議な魅力というか、なんというか……仲良くなれそうな気がしたの!」
「儀式でいつも篭ってるせいで万年ぼっちですもんね天照様………良かったですね………本当に………!!」
「そこ!鳴内!さっきから一言多いわよ!あとわざとらしく涙ぐむのもお止めなさい!」
「初めてのお友達………ですかぁ!……いいですね………おめでたいことですねっ……!」
「初に子供扱いされた……泣きそう……」
「はいはい天照様。どうぞ私の胸で存分にお泣きくださいませー」
「お前の大きな胸で余計泣きそうになるのよ粉雪いいいいいいい!!!」