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異世界の貴族は転生者によって成り立っている。

作者: 夢・風魔

 ある日、唐突に俺は死んだ。

 死因は定番だが、ボールを追いかけて道路に飛び出した子供を助けようとしてトラックに轢かれたのだ。

 そして定番である神様が哀れんで俺を異世界に転生させてくれたっていうね。

 ほんのささやかなチート能力を持って転生した先は、これまた定番の貴族階級の家。

 この異世界で俺は第二の人生を成り上がって無双する訳だな。

 わくわくしながら自身の成長を待ちわび、そして三歳で魔法の才を発揮する。


 やっぱりな。俺は成り上がり人生が確定したぜ!


 だが七歳の頃、とんでもない現実と向き合うことになる。


 王都で皇女さまの誕生日会が開かれた時、俺も両親に連れられて出席する事になった。

 そこでは公子公女さまがずらりと居並び、和気藹々としたムードで談話を楽しんでいたりした。

 俺も貴族社会の仲間入りをするため、そっと輪の中に入ろうとしたが……。

 そこで聞いた会話に目ん玉が飛び出たね。


「ったりー。やっぱスマホとかあった方がいいよなー」

「俺チートいらねーから、今ならソマホとモバゲのアプリほしいわ。あ、もちろんパケ放題で」

「私はネット環境かしら。パソコンとネット環境整ってたら、この世界だとそれだけで十分チートでしょ?」

「「言えてる」」


 おい、どういう事だってばよ。

 まさかこいつら……俺と同じ転生者なのか?

 そんな事を思っていると、ある一人の美少女が俺の元にやって来てこう囁いた。


「君、トラック転生?」


 何かの暗号だろうか。

 俺はぎょっとして彼女に視線を送った。

 金髪碧眼の美しい少女だ。俺より少し年上か。

 まるで人形のような可憐な少女の口から、この世界で存在しない物質の名が発せられるとは。


「ふふ。そうなのね。ねえ皆さん、また一人お仲間が増えましたわ」

「まぁ皇女さま。お友達が増えましたのね。ふふふふ」

「はははは。ようこそ異世界へ。って言っても、今更か」

「そうそう、転生成り上がりとか無双とか、案外夢のまた夢だから期待しないほうがいいよ」


 ここに居並ぶ公子公女、そして皇女さままでもが日本からの転生者だった……。

 まるで覇気が無い、だが子供にしては悟りきった目をした少年少女らは、俺と同じようなささやかなチート能力を持って生まれた子だった。


 その後、チート能力だと思っていた超魔力は今では極平凡になっていることを知る。


「あー、一〇〇年ぐらい前は凄い魔力レベルだったらしいぜ。でもなー、転生貴族が余りにも多くて平均値に成り下がったんだ。まぁ平民に比べりゃ高いから、そうがっかりすんな」


 と話すのはお隣の領地の公子で、俺とあまり変わらない時期に転生してきた奴だ。すっかり意気投合して友人関係を築いている。


 そんなこんなで月日は流れ、皆が言うようにこれといって成り上がる事もなく、つつましい貴族ライフを送っていた。

 まぁ貴族だし、不自由な事もこれと言って無いし、魔法だって使えるし。

 成り上がれなくても無双できなくても、まあいいんじゃね?

 なんて思いながらどこぞの貴族令嬢と結婚し、彼女が身ごもるとつい間が指してしまった。

 相手にしてもらえない寂しさから、つい、侍女に手を出してしまったのだ。

 しかも侍女まで妊娠するとはな。


 妻が産んだのは女子。

 それから数ヵ月後、侍女が男子を産んだ。

 妻には侍女との事はもちろん内緒にしてある。

 だが女ってのはいろいろと勘のいい生き物だ。


 娘に母乳を与えながら妻が言った一言は――


「貴方、浮気なさいましたね? しかも子供まで」


 慌てて侍女には金と思い出の品だといって、俺が五歳のときに父親から貰った古いメダルを渡して暇を与えた。

 まぁ事実上、追い出したようなもんだな。


 後で知ったことだが、この時妻は、侍女と子を暗殺する為にアサッシンを雇っていたという事だ。

 自分が産んだのは女の子、侍女が産んだのは男の子。

 跡継ぎとなると、当然男子が優先される。


 いやー、だからって産まれて間もない子供を殺すか?

 幸い、計画は失敗して侍女も俺の息子も生きてはいるみたいだが……。


 その後、妻は無事に男子を出産し、侍女の事などすっかり忘れたようだった。


 穏やかに流れる時間の中、その日は唐突に訪れた。


 妻が死んだのだ。

 食中毒で死ぬなんて、日本に居たころには考えられない死因だな。

 これだから異世界は……。

 

 喪に服して数日後、今度は息子が死んだ。

 死因は母親と同じ食中毒だ。

 更に数日後、娘が……やはり食中毒で死んだ。


 流石にこれは有り得ないだろ。

 まさか何かの陰謀か?

 屋敷に引篭もり、恐怖に震えていると――


「旦那さま、只今屋敷の前にみすぼらしい少年が尋ねてまいりまして。その……あの」


 なんだ、用件があるならハッキリ言えよっ。


「これを――旦那様に見せれば解るはずだと」


 そう言って執事長が見せたのは、古いメダルだった。

 見覚えがある。剣と盾が浮彫りされた、ファンタジーらしいメダルだと思って大事にしていた物だ。

 父親から五歳の誕生日に貰った、侍女に送ったあのメダルだ。


 みすぼらしい少年?

 まさか……。


 俺は階段を駆け下り、玄関の覗き窓からそっと少年の姿を見た。

 薄汚いその少年は、しかし瞳には覇気が宿り悟りきったかのような、子供らしからぬ目をした子だった。


 俺に気づいてない少年は、扉越しに独り言を呟いているようだった。

 耳を済ませると、


「まずは復讐だ。そこから成り上がって無双して、国を手中に収めたら大陸、そして世界だ」


 あぁ……俺の息子は主人公だったんだな……。

 

続きません(笑

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― 新着の感想 ―
[一言] もうバレてるから息子殺してお終いじゃん。
[気になる点] モヤモヤする、その後が必要だと思います
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