1曲目 「部員争奪戦 前編」
「え?私、ソフトボール部に入るんだけど…」
「…は?」
……え?どゆこと?
「なにーーー!?!?え........いや! 昨日入りたい部活ないって言ってたじゃん!?」
私は問いつめた 納得行かない!納得行かないぞ!!!
「そうなんだけど… 昨日帰るときにソフトボール部に誘われて、暇だったし体験入部してみたんだ〜そしたら 先輩に素質あるって言われちゃって…どうしても入ってほしいって…それで......」
うん、そんな事だろうとは思った 琴音の天才タイプっぷりを知ったら そりゃ
どこの部活も欲しがるだろう、私もその一人なのだ。
「じゃ、じゃぁもう決めちゃったの?」
「うん…今から入部届け出しに行こうかと…」
よし来た!
「待った! 私、琴音に軽音楽部入ろうって誘いに来たの」
「え!?…で、でももう入部届けも書いて…」
そう来ると思ったぜ天才タイプめが!
「そうね、じゃあ琴音を賭けて その先輩と私で勝負するってのはどう?」
ほら、新入部員を賭けた生徒同時の戦い!よくあるじゃん?野球漫画とかでさ!
「そんな勝手に...っていうか私が部活決める権利はないの!?」
「琴音は軽音楽部には絶対入りたくない!ってことじゃないんでしょ?」
「うぅ…確かに楽しそうだけど… 先輩待たさせちゃってるし…」
「だ か ら こ そ ! 正々堂々勝負して決めようって行ってるの!!」
そう、お互い琴音と言う人材を欲しがっているのは確かだ、向こうの方がちょっと先だけど
そんなの関係な、くはないけど 勝負で決めれば!
「で、でも…」
この子はまだ粘るつもりかッ!
「分かった、じゃあ私が頼みにいく!部室の場所教えて!」
こうなったら自分で出向くしかない って言うか何この展開…ほんとに漫画みたいだな...
「部室は運動部棟にあ...ちょ…ちょっとりっちゃんまってよぉ…」
「待たないっ!」
運動部棟 ソフトボール部 部室
私は今、ソフトボール部の部長の前に座っている。
「え?琴音ちゃんを?」
「そうです、琴音は今うちの部にどうしても必要なんです!」
ちなみに琴音は部室の端の方で縮こまっている。
「う~ん でも、うちの部にも琴音ちゃんの才能が必要なのよね…
そう簡単にあきらめろって言われても… 第一昨日琴音ちゃん
入部するって言ってくれたし…」
それを言われちゃ、ぐうの音も出ない...ところだが、今しかない、言うなら今しかないぞ私!
「そこでです、勝負…してみませんか?」
場が凍り付いた。
あたりまえだ、今の時代 部員を勝負で取り合うとかいう展開、熱血スポーツ漫画くらいでしか見ないんだから、これくらいの状況は予想済みよ!
「勝負?」
「そうです、琴音を賭けて私と先輩で勝負するんです。負けたら私も諦めます。」
先輩の心は読める 絶対 (何言ってるのこの子…) って思っているだろう。
(何言ってるのこの子…)
あ、ほら!今言ったでしょ!心で!
「でも 琴音ちゃんが先に入部するって言ってたのはソフト部だよ?それを今更…」
「でも入部届けはまだ出してないですよね?」
そう、私にとっての唯一の強みは琴音がまだ入部届けを提出していないということ。
「うぅ…それは……」
琴音がこちらをチラチラ見ている
分かっている 今私のポケットに入ってるあんたの入部届けを気にしているんでしょう?
よかったわ、先に預かっておいて…琴音、プレッシャーに弱いから圧力に負けてこれを差し出したりしちゃったら困るもんね
「で、どうです?勝負しますか?」
先輩はしばらく考え込んだ、そして
「いいわ、そこまで言うなら勝負しましょう
勝った方の部に琴音ちゃんが入るってことで…」
そうこなくちゃ!
「ふぇぇ…私の意見は…?」
琴音は小声で言った
先輩には聞こえてないだろうなぁ…
私も聞かなかったことにした
「勝負内容は、勝負申し込まれたこっちが決めていいわよね?」
当然か。まあ相手はソフト部だ、野球漫画における一対一の真剣勝負といえば...
「私とソフトボールで3打席勝負ってのはどう?」
来た、これも予想済み!
「分かりました… でも、それだと私は初心者ですし、せめて練習とかしたいので 勝負は後日でってことで...いいですか?」
「いいわ、それでいきましょう。そうね...3日後の放課後 またここに来て頂戴」
「ありがとうございます、それでは 失礼しました!ほら琴音いくよ!」
足がガクガクになってる琴音を引っ張って 私は部室を後にした
さて…
「はぁ…」
ため息しか出ない、いやむしろ今
ため息以外に何が出ると言うのだ…
「どーしたのりっちゃん 元気ないけど」
いや、あんたはさっきの話聞いてたでしょうが!!!
いや!おかしい!さっき一緒に居てこの質問はおかしい!おかしいっ!!!
「聞いてたでしょ? 三打席勝負だよ?私初心者じゃん?相手はソフト部じゃん?つよいんじゃん?このままだと私勝てないじゃん?負けたら琴音はソフト部に入部するんじゃん?私の軽音楽部が...」
ソフトボールで勝負を挑まれることは予測できた、できていたがしかし勝てるとは一言も言ってないし思ってもないのだ。
「りっちゃん落ち着いて…」
「落ち着けないよ!ヤバいよこれ!かなりヤバいよ!」
日本語がおかしくなってきた…
どーすんの、え?どーすんの私...
「ま、せっかく時間もらったんだし練習しない事には始まらないよね… 幸い今日は金曜日で 土日に時間はたっぷりあるし!」
「でもどうやって練習するの?」
それなんだ、ボールもバットも持ってないし
場所ないし どーすればいいんだ
「どうしよう…」
2人でしばらく考え込んでいると琴音がポンと手を叩いた。
「あ、バッティングセンターとかは?」
バッティングセンター…そうか
「それだッ!琴音ナイス!さすが琴音!」
「でへへ~」
「そうと決まれば明日から早速練習だ!!!!!」
「がんばってね~」
まるで他人事のような口ぶりでへらっとしている琴音にすかさずツッコミを入れる
「何言ってんの? 琴音も来るのよ!」
「ふぇぇ…なんでー?」
「だいたいは琴音が、ソフト部に入部する なんて言わなかったらこんなことにはならなかったのよ!」
「私のせいなの!?」
いやごめん違うけど
悪いの100%私だけど 後から割り込んだのは私だし…
琴音は悪くな…って
そんな悲しそうな顔やめてよ!
悪かったって!!!!!!
「まぁでも、バッティングセンターは行ってみたいかな~」
じゃあ最初から納得してくれよぉ
「じゃぁ決定ね! さっそく明日からだからね!!」
「おっけ~♪」
絶対琴音を入部させてやるっ!
先輩覚悟ッ!
アラームが鳴った。
しかし今日の私はひと味違うのですよ!
なぜなら、アラーム鳴る前にもう支度を始めているのですよ!
フハハハハハ!!!!!
…はぁ
「さっさと済ませちゃうか…」
【7:13】
時計はその時刻を示していた
待ち合わせは10時だから まだ時間は十分ある。
忘れているかもしれないが、私は軽音楽部志望なのだ。
ソフトボールとか三打席勝負とか言ってるけど 私が入るのは軽音楽部だ。私がTVでたまたま見かけたとあるロックバンドのギタリストに憧れてギターを始めたのは中学2年生の頃だ。思い返せばその時の私はそのことしか見えてなくて、なぜかいつのまにかギター背負ってたんだよなぁ
そして財布からお金が無くなってた…
栗はその人に近づこうと 無我夢中でずっとギターを弾いていた。私をここまで導いてくれたあの人には
とても感謝してるし、尊敬もしている 一度会って、生で演奏を聴いてみたい
…まぁ、それも叶わない願いだけどね…
そう、それはもう絶対に叶わない願い
なぜなら私の憧れていたギタリストは、私が中学3年生に上がって少ししてから、病気で亡くなってしまったからだ…
詳しいことはあまり公表されてないけど、とてもショックだった…憧れの人を失うことが
これほど悲しい事だとは思ってなかったもん…
感傷に浸りつつ私はふと枕元のデジタル時計をみた
【9:57】
……こ、これは……デジャヴ?
待ち合わせの公園まで、ダッシュでも30分はかかるかな?
ってことはつまりですね…はい。
「遅刻だぁぁああああああああ!!!!!!!!!!」
「ご、ごめ…おまた…せっ……」
「もー!りっちゃん遅い! 待ち合わせ10時じゃなかったの?」
「ごめんごめん… ちょっと考えごとしてたらつい……」
初日から遅刻芸をかますなんて我ながらかなり恥ずかしい。
「ふー、今回は見逃してやろうぞ、私の寛大さ故に、ね。」
「ありがとうございます琴音大明神様...」
などとコントを済ませた私たちは、目的地であるバッティングセンターをめざした。
「ふぅ…やっとついたよ…」
「りっちゃーん…私疲れた! 休憩しよーよ…」
うん、私も疲れた 休憩しよう
「だなー…」
そう言ってすこし休む事になり、近くにあったファストフード店に足を運んだ
「あ、りっちゃん!このイカサンドっての食べようよ!」
店内に置いてあったメニューボードを見ていた琴音が言った、なんじゃそりゃ…見るからに怪しいぞ…
「や、やめとくわ…」
「えー、おいしそうなのにぃ」
いやいやいやいや、ない。
それはないぞ琴音
「う~ん……じゃぁ、この超ウルトラチーズバーガーで(キリッ」
「何そのめっちゃ長い名前」
超ウルトラってなんだよ!
ださい必殺技かよ!
私は嫌な予感を感じながらもゆっくりと手元のメニューを開いた
メニュー
・チキンバーガー
・愛と勇気が友達サンド
・超ウルトラチーズバーガー
・ベーコンレタスえだまめバーガー
・そうめん
・ハムデニッシュぽん酢バーガー
・イカサンド
・天地翻し光と闇が同調する狂詩曲
一ページ目が大体こんな感じだった
………
いやいやいやいやいやいや
「おかしいだろ!!!!」
「えっ!? りっちゃんなに?」
「いや!何?じゃないでしょ!? このメニューおかしくない?なにこれ、ツッコミ所多すぎてもはやツッコめないよ!!!!」
「ちょ…おちついて…」
栗に驚きつつも冷静に答える琴音
「いや!こんなメニューで落ち着ける琴音がおかしいよ!」
「いやでも、食べられそうなのもあるし…」
「いやいやいや!! ………あー、ああ...」
もういいや、来ちゃったんだし…なにか頼むしかないよね…各々頼むものを決めカウンターへと向かった。
「ではご注文の品が出来上がり次第お席にお持ちしますのでもうしばらくお待ちください。」
とのことなので席に座って待つことになった。ちなみに別のメニューもロクなものがなかった。
「りっちゃんはなに頼んだの?」
「ベーコンレタスえだまめバーガー」
一番まともそうだったからね、当然だね。
「琴音は何にしたの?」
「んーとね、天地がなんとか光と闇の〜みたいなやつ」
あれかよ!!!よりによってそれ頼んだのかこの子は、怖いもの知らずかよ!
「そうなんだ、どんなのが来るんだろうね...」
「うん、楽しみだね」
少なくとこれを楽しみと言える人の思考が普通だとは到底言えないであろう、こいつは天才にして天然だ。
と、栗は思った。
「ところでりっちゃん、部って3人で成立なんでしょ?私がもし入ってももう一人必要じゃないの?」
そうなんだよなぁ、最低3人。つまり琴音を引き入れられたとしてもまだ一人足りないからどうにかしないといけない、しかもバンドを組むには私がギターなのは譲れないとしてベース、ドラム、ボーカルの3人人は必要ね....でも歌は最悪私がやれば二人でもバンドは組めないことも...あー...
「それは、あのね これから考える。」
「りっちゃんらしいね。」
失礼な、私がTHE 大雑把って言われてるみたいじゃん、いや否定はしないけど。
「お待たせいたしました〜」
そうこうしていると注文したものが出来上がったようだ。
「ベーコンレタスえだまめバーガーのお客様」
「あ、私です!」
へぇ、まあ一番普通そうなのを選んだだけあって見た目はなんの変わりも無いベーコンレタスバーガーみたいね、おそらく中にえだまめが入ってるんだろうけど...。
「それではこちらのお客様が、エンドオブカオス ラプソディバーガーでお間違い無いでしょうか?」
「「ん?」」
店員の口から意味不明の呪文が飛び出したとき、私と琴音はほぼ同じタイミングで疑問の言葉が口から出た
「あ、あの 今なんと...」
「エンドオブカオス ラプソディバーガーです」
店員は首を傾げて不思議そうに、意味不明な呪文を繰り返した
琴音がすかさず返す
「あの、私が頼んだのは天地がなんとかってやつなんですけど...」
「はい、ですのでこれが エンドオブカオス ラプソディでございます。」
店員は当然のように、何食わぬ顔でそう答える。
ここで気付いた、どうやら琴音も感づいたようだ。
これ、間違いない........
天地翻す光と闇が同調する狂詩曲(エンドオブ カオス ラプソディ バーガー)だ!!!!!!!!!!!!!
「あ、あー...すみませんありがとうございます...」
琴音の目の前には黒光りする球体のようなものがポツンと置かれている、誰がどう見てもバーガーじゃない"それ"を、禍々しい黒に染められて私たちの顔を反射し映し出しているその物体を、私たちはただ呆然と見つめていた。
「ふぅ~ 美味しかったね~りっちゃん♪」
琴音が機嫌よさげに話しかけてきた
「う、うん…」
美味しかったよ、少なくとも私のは美味しかったけど、琴音の食べたアレがおいしいしなんて私は絶対信じないからな、絶対にだ。
食べた者にしかわからない世界が、そこにあるのだろう。
二度と行かない。そう心の中で決心する栗だった。
結局、この日はバッティングセンターには行かず、家へ帰宅して、寝た。
琴音の情報
峯岸 琴音
柿ノ木高校 1年生
主人公の幼馴染で性格は天然だが
やる事なす事はそつなくこなす天才タイプ。