②お嬢様の宝物
間が空きました、不定期投稿第二弾です。
「どうも、針山百合子です。日本から来ました。お招きいただき、ありがとうございます」
今日はお嬢様の元へ来客です。
裏稼業では有名な筋のお家なので、同じように裏社会の仕事をしている方々がよく挨拶に来るのです。今回のお客様は法治国家『日本』での活動を主としている暗殺組織の使者の方。用件は『国外逃亡した暗殺対象の取り扱い条約』だそうで、彼女はその書状を届きに来た方です。
その書状自体はもう受け取り終えていますが、組織同士の友好を深めるため数日お客様としてお泊りしてもらうことになっています。
それにしても――お嬢様の可愛さには及ばずながら、なかなかの美貌を持ったお方ですね。
彼女も暗殺組織の方であるはずですが――筋肉も目立ちませんし『色仕掛け』のタイプでしょうか?
使用人達を無闇に誘惑しないといいのですが……
「くすぐり攻撃ー!」
「きゃー!」
それ以前に、お嬢様に遊ばれていますね。
一応、別組織からの使者なので玩具扱いされては困ります。
「お嬢様、その方はお客人なので……お遊びはそこら辺でご勘弁ください。お客様も嫌なら嫌と言っていいですよ?」
「えー? せっかくいい所なのにー」
「べ、別に嫌ってわけじゃ……ちょっとくすぐったかっただけで……」
……別に嫌じゃなかったならいいのですが、虐められて頬を赤らめるのはどうでしょう?
暗殺者として大丈夫なんでしょうかこの人? 見ているとこちらが変な趣向に目覚めそうです。
夕食時。
「それで、私は彼のワインと私のワイン両方に青酸カリを入れたんです。警戒して入れ替えられても大丈夫だけど、普通に乾杯して一緒に飲んだら死んじゃいますよね? だから私は、自分のワインを飲むふりをして、実は口の中の給水スポンジに吸い込ませることで服毒を防ぎました。結構コツがいるんですよ? こぼさず、舐めずに染み込ませるのって」
「わーすごーい!」
百合子様は、なかなか立派な『仕事』を数々されていたようです。
お嬢様のお家は殺し屋の家系。お嬢様も『その手』の教養を受けております。そして、この家に招かれた裏の世界のお客様はお嬢様にその『仕事』の話をお聞かせしていただくのが決まりになっています。本来は企業秘密の部分もありますが、お嬢様はその部分には融通を効かせられる程度の立場にいます。
これはお嬢様の後々の『仕事』のためにも、参考になるのです。
話からすると百合子様はやはり相手を油断させ、隙をつくタイプの暗殺者でした。闇夜のすれ違いざまや狙撃よりも危険度の高い、自分自身をターゲットの前にさらけ出す暗殺──相当に実力がなければできません。
そのような方の経験はお嬢様のためになります。
わたくしのような役立たずとは大違いです。
「ねーねー。ところで、ユリコは好きな人いるの?」
「それは……どうでしょうね。こんな仕事をしてるとそういうのは……」
百合子様は返答に困っているようですが──それもしょうがないことでしょう。
裏家業では、恋人や家族というものが大きな弱みになります。ですから、『裏』の仕事を生業とする人は家族や家系がまるごと『裏』の世界にあるか、あるいは天涯孤独で失うものが無いという人が大多数です。たとえ親戚などがあったとしても、縁を切り二度と会わない場合がほとんどです。
一族が『裏』の住人として、生まれたときから『表』の人間との関わり合いが少ないお嬢様の質問は少しデリカシーが無かったかもしれません。
特に……
「きれいだねー。そのネックレスにしてる指輪ってもしかして、婚約指輪なの?」
『婚約指輪を大切に持ちながら指に通さず、婚約相手のことを話さない』──そんな状況から心情を察するには、お嬢様にはまだ難しかったようです。
夕食後。
お嬢様が通信教育の宿題を終わらせるために一人でお部屋に行かれ、百合子様はお一人になりました。
客人として迎えられるのが落ち着かないようで、彼女は中庭に出て、ぼんやりと星空を見上げています。
「……先ほどはお嬢様が失礼をしました。お許しください」
一人の時間をお邪魔して申し訳ないとは思うのですが、やはりお嬢様の粗相の謝罪はわたくしがしなければなりません。怒りを受けるなら、それはわたくしの仕事です。
しかし、彼女は──寛容でした。
「あら、あなたはさっきの……構いませんよ。どうせ、こんなものもう役に立たないですし」
寂しそうな目で指輪を見つめる彼女は──儚く、美しく見えました。
「あのお嬢様の質問に答えてませんでしたね。私……婚約者がいたんです。同じ組織の先輩で……いつか足を洗って、結婚しようと誓い合っていました」
裏家業から足を洗う。
それは、口で言うほど簡単ではありません。組織の『仕事』とはそれ自体が機密事項で、死ぬまで『仕事』を続けるか口封じされるのが普通ですし、殺しの仕事ともなれば報復の心配もあります。
その誓いはきっと……とても重いものでしょう。わたくしなど、想像することもできないほど。
しかし、婚約者が『いた』ということは──
「なんとか、目処は立っていたんです。二人でケジメをつけて組織を抜けるまで、もう少しだったんです。でも彼は……もう少しというところで油断しちゃったんでしょうね。最後の『仕事』に行った彼は、その先で……」
俯いた百合子様の目から、一粒の雫が落ちました。
「どうして……そのような話を、わたくしに?」
「あなた……家族はいますか?」
「いえ……親兄弟もなく、天涯孤独の所をお嬢様に拾っていただきました」
「そうですか……ならきっと、あのお嬢様があなたの初めての家族なんでしょうね。あなたはあのお嬢様に拾われてここにいる……でも、逆に言えば、彼女に拾われなければこんなところにいなかった。もしかしたら、陽向の世界で生きることも……」
「それはありません。わたくしは、お嬢様に仕えるために生まれてきたのだと思っています。わたくしは、お嬢様に仕える以外何も望むものはありません。呼んでいただく名前も、見返りも、感謝もいりません。お嬢様も、わたくしをそのように、当たり前のように、物のように扱ってくださいます。わたくしの居場所はここだけなのです」
「……」
──おや?
わたくし、変なことを言いましたでしょうか?
百合子様の表情は何とも言えない──俗に言う『ドン引き』というやつでしょうか。
真剣な発言にそんな顔をされるのは……少々居心地が悪いものですね。
「くく、あなた……いや、キミは一途だね。なかなかいないよ、まだそんな年でそこまで主従関係極めてるなんて。代々仕えてきたわけでもないっていうなら……それ、実は恋しちゃってるんじゃない? 確かお嬢様はあの見た目のわりに14で……三歳か四歳くらいの差なら十分同年代だし」
「あの……言っている意味がわかりませんが……」
「あーあ、気を張って損しちゃった。キミ、私とお嬢様が話してるとき殺気すごいんだもん。話しかけられたとき、何かされるかと思ったけど……単なる嫉妬だったのね。心配しなくても、私は同性を落とす趣味はないわよ」
雰囲気が変わりましたね。
今までは警戒して、キャラを作っていたのでしょうか?
随分とまあ──気安くなりましたね。そちらの方がわたくしも居心地がいいのでありがたいのですが。
「キミは一途で、とっても義理堅い。でも、苦労するわよ……一人に依存すると、他のことが見えなくなるから。」
百合子様は立ち上がり、伸びをします。
まるで、何かの決心がついたとでもいうように。
「ねえ、実は私、近い内にこの仕事やめるつもりなの。一人きりになっちゃって寂しいけど、やっぱりこんな日陰の世界からはおさらばしたいのよ。だからさ……」
百合子様は、わたくしに向かい、とても爽やかな笑顔を向けてくださいました。
「もしキミもこの世界が嫌になって、家族もなくて、行くところもないってなったら……私の所にくるといいよ。家族にしてあげる」
それからの数日間は、百合子様とは本当によく話をしました。
食事の時はお嬢様に『仕事』のお話を、それ以外の時には屋敷の案内や異文化見学などと理由を付けてわたくしに会いに来ました。
「やっほー紳士くん、遊びに来たよー」
「……百合子様、さすがにこの頻度はどうかと。わたくしも仕事になりませんし」
「そう言いながらしっかりと記録整理とか片手間でやってんじゃん。やっぱり、やりなれてるねぇ」
もはや友達感覚で接触してきてますね。
わたくしとしては下手に敬語を使われるより居心地が良いのですが。
「暇つぶしなら他を当たってください。何故わたくしばかりに?」
「だってここ、お嬢様とキミ以外ほとんど人いないじゃん。厨房スタッフとかもすぐ帰っちゃうし……この屋敷はまるで、あのお嬢様とキミを閉じ込めるための……檻みたいじゃない」
──『檻』ですか。
なかなか鋭いですね。
ある意味、その表現は的確です。
お嬢様は、とある事情からあまり多くの人間に関わるわけにはいきません。それ故、使用人も最小限、御側付きの下僕も現在はわたくし一人。料理人や清掃員も出来るだけお嬢様の目に留まらないように仕事を済ませたらすぐに帰って行きます。
この屋敷は、お嬢様のためだけのものなのです。
「もしかしてさ、あのお嬢様って……嫌われてるの? 本家から」
『嫌われて』は、いないかもしれません。
ただ、忌まれ、疎まれ、畏れられ、祀られているだけかもしれません。
しかし……
「閉じ込められて、形だけ尊重されて、時々慰めみたいに旅人の話を聞かされて……なんか寂しいね、あの子」
ことが起こったのはその夜のこと。
これは、ほとんどが後から聞いた話。
「ねえ……ちょっと話があるんだけど、いいかな? 後で、他の人たちにバレないように会いたいんたけど」
百合子様は、まずわたくしに声をかけました。
「申し訳ありませんが、お嬢様のお世話がありまして……」
「お嬢様はもうすぐお風呂でしょ? その間にちょっと……内密な話があるの。『組織』として」
「……かしこまりました。書庫で待っております」
そして、わたくしを先に書庫に向かわせた彼女は、お風呂に入ろうと服を脱ぐお嬢様のもとへ行きました。思春期真っ只中のお嬢様は、お風呂には使用人一人として連れて行きません。実際その時、風呂場にいたのは、お嬢様だけでした。
「ん? ユリコ、どうしたの?」
日本式に深い浴槽に浸かるお嬢様は、同性ということもあり、そして数日間共に過ごした仲ということもあり、無防備なままの姿で首を傾げます。脱いだ服や持ち物は脱衣場のかごの中、身を隠せるものは頭に乗せたタオル一枚だけです。
そんなお嬢様に、百合子様は一言だけ言いました。
「ごめんね、お嬢様」
百合子様の手には、袖に隠せるほど小さなコンパクトガン。一発しか弾が装填できず、障害物の貫通力もない……暗殺に適した銃です。
百合子様はプロの暗殺者。
引き金を引くのに、躊躇いはありませんでした。
弾は音速を超えず、さらに火薬の音を抑える消音機能を備えたそれは……
シュッ
という小さな音を立て、お嬢様に弾を放ちました。
数日をともに過ごして警戒を緩めさせ、屋敷を案内させて暗殺に丁度いい場所を探し、下僕を懐柔して離れさせ、無防備な入浴中を狙う──暗殺としては、申し分ない流れでした。
ただ一つ、誤算があるとすれば……
「……っ!?」
一つ、誤認していたことでしょう。
あるいは、侮っていたことでしょう。
おそらく、百合子様はお嬢様のことを『いずれ殺し屋になるための訓練をうけた程度の普通の少女』とでも思っていたのでしょう。
ですからきっと、驚いたでしょう。
至近距離から発射された弾を、まるでペンでもかじるかのように『噛んで』止めたお嬢様には、驚愕を禁じ得なかったでしょう。
そして、お嬢様がその弾を指で摘まみ眺める間も、衝撃で動けなかったのでしょう。
「ふーん、ゴム弾を改造した麻酔銃だねー。頭の部分が当たると針が突き出て薬が出るやつ。どうりでなんか衝撃が軽いと思ったよー」
「あ……ありえない……!」
ゴム弾で通常の弾丸と同じ形にして、ダーツのような形の通常の麻酔銃より速度と精度を上げた改造弾。確かに、鉛玉の威力はありませんでした。目的はお嬢様を眠らせ、溺死させること。わたくしと話す間にアリバイを作り、事故に見せかけるつもりだったようですので、銃弾に威力は必要なかったのです。
しかし……それ以前の問題として……
「ゴム弾だとしても……いきなり撃たれて歯で止めるなんて、非常識過ぎる!」
『常識的な人間の反射神経』を基準にしていたことが、誤りだったのです。
驚く百合子様に、お嬢様は笑いかけました。
「いきなりお風呂に入ってきて撃ってくるユリコも非常識だと思うけどねー……で、もう諦めちゃったの?」
その言葉で、百合子様は思考を切り替えました。
アリバイ工作は失敗しても、暗殺はまだ失敗していない。
お嬢様は半身以上が湯船に浸かっていて年の割に体も小さく、湯船の外にいる百合子様は大人です。接近戦なら、圧倒的に有利だろうと思ったのでしょう。
しかし……
「く……らっ!!」
「えい!!」
お嬢様の頭を水面に押さえつけようと手を伸ばす百合子様に対し、お嬢様は水遊びでもするかのように湯船のお湯を撥ね上げました。
そして、それを目隠しにしてお嬢様が逃げ出そうとしていると判断してさらに手を伸ばした百合子様は……『チクリ』とした痛みを感じたことでしょう。
お嬢様が、先ほど『受け止めた』麻酔弾をその腕に突き刺したのですから。
「あ……あれ?」
百合子様は、自分で用意した麻酔弾の効用を自らの身体で確かめることになりました。
目が覚めた百合子様は自分が縛られて、転がされていることに気付きました。
場所はお嬢様の私室……この屋敷を調べつくした彼女が唯一足を踏み入れていなかった部屋でした。
「あ、起きたんだー。大変だったんだよ、ユリコ大きいから」
目の前にはバスローブを纏い、ホカホカと湯気を放つお嬢様。
自分を縛るのはバスタオルやお嬢様が入浴前に着ていた衣服。どうやら風呂場で拘束され、そのまま運ばれてきたようでした。
「お嬢様、こ、これは……違うんです、これには訳があって……」
事故死を演出するため、使用したのは麻酔弾。
掴みかかろうとしたのも、人を呼ばせずに内密な話をしようと口を押さえようとしたと言えばどうにか辻褄が合う……そう思ったのでしょう。
しかし、前提が間違っていました。
「知ってるよ。サツキを殺せば、足を洗える……そう言われたから、サツキを殺しに来たんでしょ?」
百合子様は、呆然としたそうです。
それが、図星だったからでしょう。
組織から足を洗う条件、それがお嬢様を暗殺すること。そのために、この国まで来たのですから。
「どうしてそれを……まさか、嵌められた……? あの依頼は私を消すための罠、だったの?」
「半分くらい正解……かな。でも、サツキを殺せばお仕事やめられるのは本当だよ? だけど……今までサツキを殺せた人なんて、だーれもいないんだよ?」
お嬢様の言葉に、百合子様は目を丸くしたそうです。
そして、段々と理解し始めたようです。
かつて、彼女自身がこの屋敷を『檻』と表現したのは、疎まれているお嬢様を本家から遠ざけると同時に、お嬢様を邪魔に思っている立場の者から身を守るためにだと理解していました。大きな家の跡目や権力争いのためだと考え、自分自身が受けた依頼もその関係のものだと思っていたのです。
しかし、実際は──檻は檻でも、猛獣の『檻』だった。
「まさか、あなたの『仕事』って……!」
プロの暗殺者を圧倒する実力。
そして、自分の命を狙われるのが当たり前のような口調。
殺し屋の家系……その『仕事』。
「サツキのお仕事は、このお屋敷に来た『コロシヤ』の人達を殺すこと。このお屋敷には、いろんな組織の裏切り者とかが集まってくるのー。サツキを殺せばゆるしてもらえるからねー。でもねー……みーんな、サツキに負けちゃった」
お嬢様は勉強机の引き出しから一つの箱を取り出しました。鍵の付いた小さなブリキの箱──お嬢様の宝箱です。
お嬢様は、鍵を使ってそれを開きます。
その中には──銃弾の薬莢や金色の金属片、指輪や小瓶などの小さなものが何十と詰まっています。
小さな子供がキレイな貝殻やガラス玉を集めるのと似たコレクション──しかし、その意味は大きく違いました。
「これ、みーんな。このお屋敷に来て、サツキを殺そうとした人達が持ってたんだよ? きれいでしょ?」
返り討ちにあった殺し屋から奪った戦利品の数々。
その中に──『それ』はありました。
「特にこれ、もう一つセットになってるみたいだから、欲しかったんだー! ユリコのおかげでようやく揃うよ!」
それは、百合子様のネックレスにしている婚約指輪と同じデザインの指輪──『最後の仕事』で死んだ彼女の婚約者の指輪でした。
何故、お嬢様が最初に百合子様の指輪を見て『婚約指輪』と言ったのか──
百合子様は──全てを理解しました。
「ぁぁ……ぁあああああああ!!」
その怒声か悲鳴かわからない叫びは、書斎の私のまで届きました。
わたくしがお嬢様の私室のドアをノックしたときには、もう全てが終わっていました。
「お嬢様……入っても、よろしいでしょうか?」
「あ、ちょっと待ってー……いいよー!」
ドアを開けると、そこに『いた』のは真っ赤なバスローブを着ているお嬢様『だけ』でした。
そして、床には百合子様『だったもの』が転がっています。その首のネックレスは断ち切られ、真っ赤な指輪はお嬢様の手にありました。
お嬢様は、わたくしにニッコリと笑いかけました。
「また汚れちゃった。もっかいお風呂入るから、片付けておいてね?」
そして、わたくしは百合子様を初めてお話した中庭にお埋めしました。確か、このあたりに彼女の婚約者の方も眠っているはずです。
不慣れながら、死に化粧もさせていただきました。そして思ったのですが……
「百合子様……美しい方でしたね」
彼女はわたくしに対して『お嬢様に恋してる』と言いましたが、それは間違いだったと思います。
わたくしとお嬢様の関係はそんなものではないのです。
お嬢様はわたくしの恩人なのです。そんな、下心を抱くわけないではありませんか。
むしろ、どちらかと言えば……百合子様、あなたの方が女性としては魅力的だと感じていましたよ。もしかしたら、これが『恋』というものだったのかもしれません。
暗殺に好都合で利用されたとしても、あなたの『家族にならないか』という申し出には心揺れるものがあったのは事実です。
しかし──
「お嬢様に仕えている以上……しょうがないですよね」
お嬢様は殺人鬼。
自分の命を狙う人間など、生かしておけない性分です。そのお嬢様を殺しに来た暗殺者の百合子様とは、何がどうなっても結ばれる未来はなかったでしょうね。
ロミオとジュリエット──などと言うつもりはありませんが……
「良かったですね……婚約者の方と一緒になれましたよ。お嬢様のおかげです」
たとえ組織の事情などなくとも、やはりわたくしは、自分の恋などよりお嬢様を優先します。
わたくしにとっては、お嬢様が全てなのですから。