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ヴァルハラ・ヴァルフレア  作者: えむ
二、アルヴィンス・ガザの導き
12/26

02

 しかもあのブリュンヒルドを仇敵と見定めていて、己れはその場にいなかったのだが、というよりもここから動けなかったのだが、酒場ですでに一悶着起こした後のようだ。

 ブリュンヒルド相手にかような事をしでかすなど、普通であればその場で首を飛ばされるところなのだが、奴がこの少年だか青年を殺さないでいるのは、恐らく素養があると看破したからなのだろう。

 証拠に己れの『声』も届いている。

 まあ、そうでもなければ黒の部屋に入れられる事もないのだろうが。

 ただ正直なところ、己れも驚いている。

 久方ぶりの隣人が、まさか男の身でありながら『戦乙女の力』を持つ者であろうとは。よもや己れと同じ体質を持ち合わせていようとは。

 天の思し召しか。

 いや、神だの天だのは信じていないが、ここぞとばかりにすがらせてもらう。

 どうやら運が向いてきたらしい。

 そして憐れ戦乙女たちよ。

 恨むならお前たちの父が作り上げた法則を恨め。


   ◇・◇・◇


「……四大フォルス?」

 気の抜けた声で己れの言葉を反芻するロビンの表情は間抜けだ。

 無理もない。三日三晩も話し続けているのだ。しかも自分にそんな幻想染みた力が宿っているなんて、普通の人間は思わない。

 思いの力──四大フォルス

 それが、戦乙女たちが振るう膂力の正体である。

 火水風地。天界であるここヴァルハラを含む三千世界は、基本的にこの四大を基に形作られ、結束。縛られている。

 そしてこの力は、己れたちにも宿っている。

 本来四大は主神オーディンが子である戦乙女に与えるもの。しかし四大というのは世界を形作る要素。いわば、普遍的に自然的に、造作もなくその辺りに転がっているものでもあるのだ。

 四大はその性質上、何かを核に収束する。

 それは例えば古めかしい道具であったり、気の流れが溜まり易い場所であったりと形は様々だが、稀に、大きな感情を持った心に収束する場合がある。

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