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* プロローグ *

SFファンタジックサスペンスアクションです。

登場人物が、どういうことを考えて、どういうことに悩んでいるのか…

読んでいただけたら嬉しいです。


※完結済みですが、たまに改稿しています。

ストーリーには変更なしで、主に表現の変更や描写を削除するなど軽量化につとめています。

キャラクターの設定画などはサイトに載せております。

サイト内キャラ紹介ページ↓

http://asahiya10.web.fc2.com/story.html


 けたけましく鳴り響くベルの音。耳がおかしくなりそうだ。壁から床から、全方位から音の波が身体を揺さぶる。その中を、二人は走っていた。


 エレベーターは使えない。電源が落ちていることが予測される。なぜなら、今二人に見えているものは弱々しい灯りだけで、それは外部電源から独立した避難誘導灯の生み出した光だったからだ。

 エレベーターの前を駆け抜け、吹き抜けのホールへ向かう。エスカレーターで一階へと降りられるはずだった。

 予想通り停止していたエスカレーターを、ばたばたと駆け下りる。


 鼓膜をがんがんと叩くベル、それと連動した赤い警告灯が回転しているのが見えた。薄暗い展示ホールで、警告の赤は異様に目立つ。ホールの中央で、その赤に周期的に照らされる古代の骨の標本はことさらに死が強調され、血塗られた死に様を思わせる。

 人の姿は見えない。全員退避したのだろう。なんといっても、非常事態なのだから。


「あっちよ!別館は…!」

 ベルに負けないような大声で一人が指を指し、その方角へ走り出した。もう一人が頷いて、追いかける。


 暗い。物の形がやっとわかる程度の光量だ。ケースがごちゃごちゃと並ぶ展示室を、注意しながらもなるべく急いで走り抜ける。

 本館と別館を繋ぐ渡り廊下の前で、二人はようやく立ち止まった。

 息を切らして、見上げる。


「防火扉…!」


 分厚い扉が下りていた。シャッタータイプの扉だ。消火設備は作動していない。つまり扉を下ろしたのは、火ではない。

 防火扉の脇に、一人が退避用のくぐり戸を見つけ、そのノブをひねった。が、開かない。もう一人も加わり、戸に体当たりをする。わずかに透き間は開くものの、戸は開かなかった。


「どうしてよ!」

「反対側からロックしてるんだ。少し開いたってことは物理的な方法、多分南京錠か何かで…」

 答えた方が戸から離れ、防火扉を見上げる。

「…どうするの?」

「防火扉なら、復帰できるはずだ」


 防火扉の横の壁に金属の小窓がある。開けると、小さなディスプレイにバックライトが点灯し、緑の光が点滅を始めた。


「あぁ…もう!」

 げんなりした声で、肩を落とす。

「防犯シャッターも兼ねてるんだ!」

 認証装置だ。ディスプレイが個人情報の入力を求めてきた。


「ねぇ、どうするのよ」

「仕方ないよ、無理やり開けるさ」

「壊すの?」

「中身をね」


 言いながら、服の中から何かを取り出す。ボールペンのように見えたが、それは手のひらの上で形を変えた。グリップのついたマイナスドライバーだ。暗がりの中、認証装置の外装の隙間にそれを突き立てる。堅い。


「貸して!」

 もう一人が割り込んで、力を込めた。金具が壊れる音がして、外装がぶら下がる。

「さすが…」

「いいから、早くしなさいよ!」

「わかってるよ」


 マイナスドライバーが、また形を変えた。何も操作しなくても、手の中で自発的に変化していく。思う通りの形に。

 導線と接続端子の形に先端が変化したそれを、認証装置の基盤に差し込む。反対側は手の中でカード状になっていた。


「まだなの?」

「わかってるって!…展開っ」


 手のひらのカードから、発光する半透明の板が宙に開いた。

 アンテナだ。

「逆操作を、自動計算させる」

 光が目まぐるしくアンテナを駆け巡る。程なくして、認証装置のディスプレイに、復帰を告げる表示が点灯した。

 防火扉が動き出した。良く整備されているのか、想像される重量の割には軽々と巻き上げられていく。


「やった、開いた!」

「やるじゃない!」

 ほっとした様子で顔を見合わせる二人。しかし、防火扉の向こうを見て、二人は身体を強ばらせた。

 見えたのは、銃口だ。


「チェルト!」


 一人が叫んで、もう一人の肩を掴む。肩を掴まれ、扉を開けるのに使ったカードが手を離れた。アンテナが消滅する。


「…!」


 銃声が、響いた。

 叫んだ方が、もう一人を抱きしめながら、倒れ込む。


 *


 自分よりも背の高い相手に押し潰されて、下になった方が小さく呻く。床に押し倒された衝撃で、眼鏡がどこかへ飛んでしまった。が、気にする余裕などない。顔にかかった長い黒髪を払いもせず、扉の向こうを見る。

 ぼんやりと、向かってくるものが、何人かの足が見える。複数の銃口がこちらを向いている気配がした。

 身体を起こそうと力を入れた。そして、力なくずり落ちていく彼女に気付く。


「…あ、…」

 気付いた。恐ろしく温かい、彼女の血の中にいる。


「アリー!」


 呼吸が上手くできない。こんなにも簡単に。扉を開けるよりも簡単に。

 溢れた涙が血と混ざる。

 彼女をきつく抱き締める。その背中に銃口が、ぴたりとつけられた。

 彼女の金髪に顔を埋めて、嗚咽を飲み込む。


 二人が、重なって床に倒れる。

 二人が、暗い赤に沈んでいった。


 * * * * * *


 光景を映していた空間が閉じていく。

 四角い破片になり、倒れる二人の姿は消えた。


 再生が終了し、音が戻ってきた。穏やかに湧く噴水の心地良い水音が、心を静めていく。

 円形の噴水を中心に左右対象に作られた四角い中庭を、柱に支えられたアーチ型の天井を持つ回廊が囲んでいた。白い柱と天井は、植物の図案を配置した幾何学的なモザイクに彩られている。中庭には季節を無視した様々な花が咲き誇り、甘い香りが心地良い。

 空は美しい色をしていた。薄明るく、複雑に色が混ざり合う。終わることのない夜と始まることのない朝を湛えた星空が、中庭に降り注ぐ。


「…これが、最も確率の高い未来なのですね」


 緑色の人影が呟いて、空を仰ぐ。

 緑色なのは、彼女の長い髪の毛だ。植物の緑というよりは、鉱物の緑のような透明な輝きがある。ごく暗い緑は淡い光を受けて透き通り美しい。ゆたかな髪と白い衣を翻し、彼女は回廊から一段低くなっている中庭へと降りた。

 乾いた木の板を叩いたような音が、優しく響く。音は回廊全体から響き、音楽のようにも聞こえた。


「えぇ、解っています。確率は予知ではない、未来は予知などできない…」

 音がころころと鳴り、彼女がシャトルーズグリーンの目を閉じる。


「確率を減らします」

 音が戸惑うように、音階をふらふらと移動した。

「私情ではありません。…彼を失うことによるわたしたちの損失ははかり知れません。間違いなく彼は必要なのです」


 定まらない不協和音の中で、彼女が目をうっすらと開け、呟く。

「…嘘ですね。…わたしは彼を、彼らを失いたくありません」


 わずかな沈黙。やがて、音はゆっくりと再び、言葉のような旋律を刻みだした。彼女が小さく笑う。

「…えぇ、大丈夫ですよ。彼がこの世界に必要なのは事実ですから」

 彼女が笑みを消す。音は彼女を待っていた。


 彼女が顔を上げ、回廊を振り返る。

「サイノス・グランビアに連絡を」



 * * * * * *

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