prologue
それは、大樹のようにいくつも枝分かれして聳え立つ虹色の塔だった。
暗い闇の海の中、それは幾つも建っていて……内から溢れる光の渦が、その上に新たな枝を作っていく。
私は何時からそこに居たのだろう。
一瞬か、永遠か、あるいは私は今そこに生まれたのか。
そもそもそこに時間なんて物はない、私にとっての時間はあの塔の中にあって 此処に住むものの時間は、私には難しすぎた。
しかし、やがて私の手に暖かい物が触れた。
細く、柔らかく、そして力強い、女の子の腕だった。
「後悔しないで下さい、諦めないで下さい……」
女の子は言った。
「これから貴女は大きな後悔を背負うけど、それを背負ってどうかここまで来て下さい」
手に落ちた涙が伝わる。 そのとき私は、自分が水の中にいることを知った。
「……ごぼっ」
言葉を話そうとしても、気泡になって昇っていくだけ。
女の子は、その手にリボンを持つと……私の手に渡した。 黒い地に薄紅色の桜をあしらった、綺麗なリボン。
「これは、貴女が返すものなんです」
そう言ってどこかへ泳いでいく女の子に、私が手を伸ばそうとする。
しかし体はどんどん浮いていき、やがて水面の空気に体が触れた。
バシャア
ざばあぁぁ
「……っはぁ、はぁ」
水面に出ると、私は生まれたばかりの赤ちゃんのように肺いっぱいに息を吸い込んだ。
そこは、お風呂のように水を張ったカプセルの中だった。
「バイタルサイン正常……人工肺及び臓器正常稼働を確認」
「呼吸、脈拍、生体記憶に完全シンクロ、義体との完全な融和状態です」
医者らしき白衣の人達が、モニターに向けて何かを話している。
眩しさに驚いて閉じていた瞳は、次第に開いていった。
「娘は……娘たちは、どうなりましたか?」
「我々も手は尽くしましたが……浸食が酷かったため、お一人しか……」
何か話し声が聞こえて、私は隣に振り向いた。
「……舞?」
その部屋に、カプセルは二つ。
一つは私が浮かんでいた。
もう一つは、何も入っていなかった。
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