解答の海
高波に突き当たったのは多分14の夏だった。
波は私を飲み込むことなく、周囲の気色だけを変えていった。
取り残された私は濡れただけで染まらなかった。
染まらない為に自分の涙を駆使することを覚えたから。
真っ直ぐ立つか、真っ直ぐ横になるか、
間を保つ術を探すのに選べた場所は多くない。
また飲まれずに染まれなかった波を見送る際に居座る間、
私は時に同じ事をしゃべりすぎ、違う事に関してはしばしば無口だったが、
一貫して凍えかけていた。
黒縁メガネの男は嫌いだ。
ひとりから私は逃げ切り、
ひとりは私から逃げ切った。
たったふたりがその辺りの解答の海を満たしている。
黒縁メガネの男を異様に気にして見つめて、
違うところではなく同じところにチェックをつけ、
それが完全に一致することを望む自分を知るとき、
私は自分が人間の女という生き物であることに心底から恐怖し、
指先から身体が冷えるのを感じる。
愛情を拒む事に必死になった時期を、
忘れられない者は哀れだ。
違うこういう愛が欲しいと自覚しているからこそ、
飢えることに慣れきって何も食べずに、
大人になる頃には代わりの何かで乾きを癒やしてしまえていて、
それを憂慮しながらも現状が最善と思えなければ、
優しくなれない。
満員電車から解放された途端に見渡せた、まだ暮れない空の裾は透き通るように白く、
何より広く、
濁ったまま固まりそうだった答えを溶かしてくれる。
改札口で団子のように並ぶ人たちへの見方が、どこか温かに変わる。
私が感じているのはその程度の冷えであるはずはないけれど、
空は絶えず変化して、
いくら見ていても飽きないし、
常に同じ配置のはずの背景と無常に織りなすコントラストは偉大であるので、
明日は違う日になると期待しながら浴槽に浸かり、
暑くなったと、蛇口から出す水の割合を増やして、
さらに冷やしたアルコールで、
今日を薄める。
コントラストは無常に変化し、
そのすべてはいつか見た、浜辺のような雲に集約され、
流れ着くたびにすでにあった漂流物と擦れあい、
色硝子瓶の破片のように、光を鋭く反射する輝きと本来の機能を失ってしまったとしても、
誰も傷つけなくなると良い。