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1 出会いはとても綺麗で嫌いな色

ゆっくりと体を起こせば、枕もとに散らばっていた長い緋色の髪が背に流れる。


緩慢な動作で窓の方を向くと、誰か店の者が開けておいてくれたのか、ただただ閉め忘れたのか、薄く開いた障子張りの部屋の窓から日が差し込んでいる。

外はすでに日が昇りきっており、時刻としていうなれば真昼とでも言うべきか。


「あぁ…そろそろ仕事の時間か…。」


ゆっくりと身を起こせば腰ほどまでもある長い緋色の髪がさらりと揺れる。

寝間着代わりの単衣の帯を解き、彼は普段着に着替えた。














樋摘ひづみ様、表の方は滞りなく進んでおられるでしょうか。」



凛とした声が響き、名を呼ばれた樋摘は振り返る。

そこには予想した通り、腰ほどまである長い緋色の髪を、頭上で一つに結った青年の姿。

…彼の年齢を考えれば、少年の方が正しいのかもしれないが。


「おはようございます、白妙君しろたえぎみ。別に何も問題ありませんよ。」


柔らかな声で樋摘がそう言うと、白妙君、と呼ばれた少年は小さく頭を下げる。

背に流れる緋色の髪がさらりと揺れる。


「では私は、これにて下がらせていただきます。

何か用がございましたら、申しつけくださいませ。」


そう言って部屋の襖を閉めようとする白妙を、慌てて樋摘は呼び止める。


「あのっ…白妙君、今宵は女衒ぜげん殿がいらっしゃるのよね?」


「えぇ、いらっしゃいます。

ですが樋摘様、女衒と言うのは仕事の名にございますから、

それに殿をつけるのはいささかおかしゅうございます。」


白妙のその言葉に、樋摘は意味がわからなかったのか、きょとんと首をかしげて黙ってしまう。


「ねぇみーちゃん、別に様なんてつけてくれなくってもいいのよ?」


「アンタ、俺の話聞いてないでしょう。

それとみーちゃんって呼ばないでください。」


端正な顔を引きつらせて言った白妙の言葉に、樋摘は少女のように小さく笑う。


「聞いているわよ。

それにみーちゃんはさっきみたいな堅苦しい話し方や私って一人称より、

普段通りに俺って言ったり少し砕けた今の方がよっぽどいいわよ。」


やはり話を聞いてない樋摘の相手に嫌気がさしたのか、白妙はため息をついて、小さく頭を下げて、部屋の襖を閉めた。
















ここは天姫殿。

天姫、と呼ばれる美しき当主のもと、表は料亭、裏は遊女屋をよ夜な夜な営み、数多あまたの女たちが働く魔の巣窟。


そんな天姫殿で体の弱い十七代目天姫あまき今宵野桜歩こよいのさほの代わりに天姫殿の多くを取り仕切るのが件の少年・白妙の役目である。

長い緋色の髪、大きな、どこか猫を思わせるややつり上がった濃紺の色を持つ瞳は、静かながらも意志の強さを感じさせる。


まっすぐ背を伸ばして歩いていた彼は、天姫殿の最上階、一番奥にある一室の前で立ち止まる。

襖の前に座り、静かに襖を開けて、頭を下げる。


「失礼いたします、天姫様。今宵の御調子いかがでしょうか。」


「天姫様、じゃなくて昔のように呼んでくれたら返事しようかな。」


にっこり笑ってそんなことを言う桜歩に、白妙も笑みを浮かべる。

無論、絶対零度の微笑みと言うやつだが。


「あぁそうですか、今宵の体調はばっちりと言うことですね。

じゃあ働いてください、馬車ウマのごとく。」


にっこり保たれた美麗な微笑みが恐ろしい。

なんだか近年、白妙がどんどん強くなって、桜歩は口ですら勝つことができなくなった。

桜歩の方が6歳も年上なのに。


「申し訳ありませんが、今宵も天姫代行よろしくお願いしますぅ―」


「承知いたしました。最初からそう言えばいいんですよ。」


ぶつぶつと小さな声で文句を言っている桜歩を放置して、白妙が部屋から出ようとすると、慌てて桜歩は彼を引きとめる。


「ちょっと待って、今日ってうい殿が来るんだよね?」


「えぇ、何やら綺麗どころが入ったとかでおいでになるそうですよ。」


桜歩の問いに、白妙は嫌そうな表情を隠そうともしないまま答える。

白妙は初―――天姫殿によく少女を売りに来る女衒である彼が嫌いらしい。











煌びやかな天姫殿あまきでん

その中に着流しの男が一人、にやにやと笑って白妙の後ろをついて歩く。


「人のストーカーしてないでとっとと用事すませて帰ってもらえませんか、初殿。」


つんとした口調で言い放たれた白妙の言葉にさえも初と呼ばれた男は動じない。


「ひでぇなぁ白妙ちゃん。オレは君のために上玉捕まえてきたってのによ。」


「あぁそうですか。

じゃあとっととその娘の買い取りの値をお決めいたしましょうか。

貴方にとっととお帰りいただくために。」


そう言って白妙は今宵、天姫殿に売られる少女がいると言う部屋の襖をスパンと開ける。

その少女―――初によると雪葉ゆきはという名らしい――――が初と来たとき、白妙は別の仕事をしていた。


だから見世の者に、いつも女衒である初から娘を買い取る部屋に通しておいて貰ったはずなのに、いつのまにか初は白妙の傍にいた。

それもいつものことなので白妙は文句を言いつつも諦めている。


「初、おかえり。」


無表情ながらも端正な顔立ちの少女が、部屋に入ってきた白妙と初にそう言った。


鮮やかな桜色の髪の細身の美少女。


何も考えずに見れば、その子はこの天姫殿でもかなりの売れっ子となるだろう。

だけど白妙の思考回路はそこに行くつく前―――――彼女を一目入れた瞬間に硬直した。


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