車内 1
世のタクシーは成長したものだと思う。
この仕事に就いてみて、改めてそう思うのだ。
車内の天井に埋め込まれた小型の監視カメラが二十四時間態勢で機能しているし、設置された通信機は全ての通話を自動録音しているし、硝子や車体も強化され、金属バットで殴られたくらいでは凹みもしない。
挙句に運転席と後部座席の間には、透明な、なんとかいう特殊強化素材で作られた壁があって、運転手や客の声を通す為そこに孔が空いている。これは当然、運転手の安全を考慮したものだ。
ちなみに金銭のやり取りは手渡しではなく車内に設けられた小さな両替機のような機械によって運転手へと流れていく。勿論逆も然りだ。運転席から後部座席への引き渡しも可能である。
運転席にはブレーキとアクセルがある足元の、そのすぐ横に幾つかのレバーばあり、このバーを引くことによって後部のドアのロックや、開け閉めが可能である。しかもこのバー、幾つかあるうちの一つは困った客を鎮圧する為の装置で、引くと後部座席全体に睡眠ガスが放出される。先にもある通りこの後部座席にあるドアのロックの開閉は運転手しか出来ない為、実質これからは映画で見たキングコングでもない限り、人間である以上逃れることは出来ない。硝子を割って逃げようにも、車体全ての硝子は銃弾でさえ防ぐ耐衝撃硝子ではないかという噂もある程の強度なのである。
いや、別にそこまでしなくてもと個人的には思うのだが、この設備はなんらかの協会で決められている事なのだそうで、そこで「うん」と言っちゃった人がいる以上、事実上、下の身分である我々は従うしかないのだ。
いくらなんでもタクシーごときに金掛け過ぎだろと思う人もいるようだが、こちらに関しては国からの命令で、しかもそこから支給金が出ているので困ることはないのだ。
このようなことから、日本国のタクシーは進化した、と僕達運ちゃんの一部は内心恐れ戦いている訳で、同時に日々自分たちもそれに乗っているかと思うと緊張もしよう。事故など起こした起こして壊した時にゃ、家五件は買える代金を払うことになるからだ。
まあでも、大型トラックとの正面衝突起こしてなお、フロントは割れず、タクシーには傷しか付かなかったという『実績』がある通り、そうそう壊れやしねえのだが。
分かり難ければ分厚い装甲を持つ戦車が街中を車並みの速度で走り狂っていると思えばいい。
元は一部の人間しか身を預けることが出来ない高級タクシーだったのだが、それが時代と共に一般化したのである。今や、街中のほとんどのタクシーがこれだ。下手に機会を弄る必要もなく、部分的にレトロな扱いが、ふざけた装甲車を瞬く間に復旧させたのである。
僕としては扱い難さ半分不便さ半分といった感じだが、どうも世間と上の方々は上記の機能に目を騙されているらしい。