その後
あれ以来、私の視界からめたもうが消えたことはない。
あの駅のあの改札口で、
めたもうは今日も私を待っている。
佐々丘さんの代わりに。
私はめたもうを無視し、
髪のあたりにまつわりつくような
気配を感じながら、
改札を抜け、
エスカレーターでホームへ降りていく。
私は思い出す。
「ここで初めて佐々丘さんに出会った」
すると、めたもうが私の二段先あたりで
悲しげに私を見上げているのを発見する。
そして電車に乗ったとたん、
私の周りの空気が薄くなり、
息苦しくなる。
ここにも、佐々丘さんはいないのだ。
そして席に座ると、私の隣の席にブラックホールがあり、
その空間のひずみに全ての空気が、全ての物が、
全ての思い出も、私の意識も、
吸い込まれそうになる。
そこで私が隣を見ると、
めたもうが悲しげな顔で私にじっと微笑みかけているのだ。
めたもうは空間の栓なのだ。
全てが吸い込まれそうなこの空虚。
佐々丘さんの不在に、
めたもうが栓をしているのだ。
だからめたもうは、
なんとなく人の形をしているのかもしれない。
めたもうが私の空間のバランスを保ってくれている。
もしめたもうがいなかったら、
私の正気は、
佐々丘さんの不在に吸い込まれてしまっていただろう。
めたもうは私を狂気から救っている。
そう、それが遺伝的な幻影なのだとすれば、
それは自己防衛作用なのだ。
……それにしても、私は、佐々丘さんのいない世界で、
いつまで生きていかなけりゃいけないんだろう。
でもきっと、さみしさに負けて死んでしまえば、
佐々丘さんを救えない。
お姉さんがいなくても、私がいる。
私は死ぬわけにはいかない。
めたもうが死神じゃないと、
証明するために、生き続けなきゃいけない。
それが佐々丘さんとの約束だと思っているから。
めたもうの話はこれでおしまい。
だから私はめたもうと共に生きていく。