表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/52

彰子が初めてめたもうを見たとき(1)

私が初めてめたもうのことを知ったのは、

田舎のおばあちゃんのうちに

家族で行ったときのことだった。

祖母が、娘である母に耳打ちしているのを、

盗み聞きしてしまったのだ。


「子供は、気をつけてないと

ちょっと目を離したすきにめたもうにとりつかれてしまうよ」


佐々丘さんはこの話にたいへん興味を示した。


「知らなかったな。めたもうはとりつくものなんだ」


そうなのである。祖母いわく、

私はめたもうにとりつかれてしまっているのである。


「祖母はそう表現してましたけど。田舎の伝承でしょうか」

「……おばあさんはめたもうを見たの?」

「祖母も母も小さい頃に何回か見たって言っていました。

あ、そうか。我が家に代々伝わってる言い伝えなのかな」


佐々丘さんは黙ってしまっていた。

彼の認識していためたもうと、

私の認識していためたもうの間に相違があるようだった。


私が初めてめたもうを見たのは小学五年生のことだった。


家族で初めての海外旅行を楽しみにしていた矢先、

私がインフルエンザにかかってしまったのだ。

ハワイでお正月を過ごすというささやかなサラリーマンの夢が、

キャンセルされようとしていた。


しかし、たまたま叔母が市内に住んでいたので、

私の看病は叔母にまかされることになり、

家族は無事にハワイへと発ったのである。


「私が両親の立場でもきっと同じことをしたと思います。

娘一人のインフルエンザで家族全員の、あ、五人家族なんですけど、

旅行をキャンセルするなんてもったいないですよね」


しかし私は、初めて家族と離れて10日間過ごした結果、

祖母の言葉を借りれば

めたもうに”とりつかれて”しまったのだった。


その日、つききりで看病してくれた叔母が買い物に出かけて、

私は慣れない家で高熱を出してひとりで寝ていた。

叔母は優しかったが、私はもともと人見知りする子だったし、

何より、家族においてきぼりにされた

かわいそうな子だということで気を使ってくれているのが、

かえって私をみじめにさせた。


高熱は私の妄想を増幅させていて、すべてを悪いようにしかとれず、

家族に自分はないがしろにされていて、

ちっとも愛されていないのだと思い込んだ。

私は熱で頭がぐるぐるするのと、

秒針がカチカチと響くのとで半分おかしくなっていて、


”ひょっとして私はいまこの瞬間ここに来たんじゃないだろうか。

私に家族がいることも、私の今までの思い出も全部夢で、

今初めて目が覚めた、ということはないだろうか”

なんてことを延々と考えていた。

今まで感じたことのない程のものすごい孤独感だった。

最悪な気分だった。 


そのときだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ