追及(3)
佐々丘さんは困っている。
そしてあきれている、
そしてやっぱり、いらいらしている。
私はそんなにわからず屋だろうか。
不当な権利を主張しているのだろうか。
いや、この会合はめたもうの会合なんだから、
私の質問は順当だ。
ただ、重要なのは、順当か不当かではなく、
私が佐々丘さんに嫌われるか否かだ。
佐々丘さんはあきらめてため息をついた。
どうやら、ごまかして穏便に不快を知らせようとしても無駄だから、
はっきり言ってしまおう、というように。
「僕がどうしてめたもうをつかまえたいのか。
それは、秘密です。
言いたくない」
佐々丘さんんはそう言った。
秘密だということがわかっただけでも、
収穫だった、と私は自分をなぐさめた。
「ごめんなさい。もう聞きません。
……ただ、でも、佐々丘さんは私と考えを共有してくれないから、
私のことを信用してくれてないみたいで、寂しいです」
私はそう言う。
佐々丘さんは表情を変えずに無言で私を見ていた。
佐々丘さんのほおに夕日が当たっていた。
私の右目も夕日でまぶしい。
佐々丘さんは答える気はないみたいだ。
私は落ち込んでしまう。
きっと私はまだ子どもで、佐々丘さんに見くびられているのだ。
佐々丘さんは、用心深げに口を開いた。
うっかり口を滑らさないように気をつけてるみたいに。
「杉浦さんのことを信用してないんじゃなくて、
知らない方がいいことだから、話したくないんです」
そう言う佐々丘さんを信用していいんだろうか。
「たぶん杉浦さんは、僕の彼女が、僕のことを
おかしい、とか言ったことで疑心暗鬼になってるんだろうと思うけど。
そんなにおかしいことじゃないと思うよ。普通だよ。
めたもうを毎日見てしまって、
毎日わずらわしく思っているんだから、
なんとかしたいと思うのは当たり前だよね」
私はまだ疑い深く聞いていた。
「僕は理性を失っていないし、
自分で自分が何をしているのかよくわかっているから。
だから、心配することはないよ」
私は、本当だろうか、と思う。
さっき、何か秘密にしていると打ち明けたのだし。
でも人には言いたくないこともあるから、
聞き出すわけにはいかない。
「君は感情移入しやすいのが心配だなあ」
佐々丘さんは突然そんなことを、
苦笑まじりではなく、真顔で言った。
「ええ?」
「エレベーターにも感情移入するくらいだし。
僕の彼女が泣いてるから行ってあげて、とか言うし。
彼女の言葉を真に受けるし。
捨て猫とか捨て犬見るとほっとけないたち。当たり?」
そんなことを言い出す。
「当たりですけど」
「かわいそうな人はほっとけないのか」
僕のことはほっといてくれ、と続くかと思った。
ところが、
「だからめたもうに、とりつかれちゃってるんじゃないかあ。
君の場合は。
めたもうをほっとけないから。
僕は君のそういうとこ、十分危ないと思ってるよ。
このままいくとどうなっちゃうんだろうって、
不安になるね」
そうだったのか。そう思われていたのか、と私は知る。
「だから、お互い様だよ。
僕は君がすぐ感情移入してしまうのを、
あぶなっかしいなあ、と思いながら、
何も言わない。
だから僕がめたもうのこととなると少しくらい熱心になるからって、
あぶなっかしいなあ、と思っても
まあ、目をつぶっててくれませんか?」
「……そうですねえ。
……分かりました。じゃあ、お互い様ってことで」
私は笑ってうなずきながら、心の中で、
丸め込まれないぞ、とつぶやいていた。
いつも無口な佐々丘さんが、こんなに一生懸命説明するなんて、
それもまたおかしいのだ。