追及(2)
「佐々丘さんはどうしてめたもうをつかまえようとしているんですか」
思い切ってそう聞いてみた。
すると、彼は不思議そうな顔をした。
もしくは、そんな顔を装った。
「……君がめたもうをつかまえようって言い出したんじゃないか」
そこで、私はもう一度聞いた。
「でも、佐々丘さんは、どうしてめたもうをつかまえたいんですか?」
佐々丘さんは私と目を合わせないまま黙った。
何かを我慢しているようにも見える。
そろそろ、タブー領域に足を踏み入れてしまいそうだ。
下手をすると、佐々丘さんが私に心を閉ざしてしまう。
佐々丘さんには秘密が多い。
しかも踏み込まれるのを嫌う。
「……君はつかまえたいとは思わないの?」
佐々丘さんは細い目をいっそう細くして、
かたくなな笑顔を見せていた。
ここで私はもう一押しするか、
それとも引くかで数秒ためらった。
しかし、やはりというか、私が踏んだのはアクセルだった。
彼女の二の舞になるとしても。
私は我ながら愚かだと思いつつも、
危機感感じて冷や汗感じつつも、
こういう場面でアクセルを踏む人種だ。
見た目によらない過激さなので、
千晴にはよく驚かれる。
「私は軽い気持ちで、
つかまえることができたらすごいなあ、と思ったんです。
めたもうが何なのか、好奇心で知りたいんです。
でも佐々丘さんは私よりずっと熱心で、
めたもうのこととなると真剣になるみたい。
それがなぜなのか、知りたいんです」
私はこうして墓穴を掘っている。
もっと賢いやり方があるのかもしれないけれど、
私はピンチになるとつい直球勝負に走ってしまう投手だ。
「僕は君よりめたもうを頻繁に見るし」
すっかり日が長くなっていたので、
オレンジの夕方の光が白い壁にさしていた。
私たちは壁を向いたカウンター席にいつものように並んで座っていて、
お互い少しずつ向き合っていた。
「その分だけ、深刻なだけ」
佐々丘さんはそう言う。
私の表情はきっと、嘘だ!と言っている。
ああ、やだな、こんなの、と思って、
私は空のコーヒーカップにうつむく。
佐々丘さんはいらいらしている。
もう聞かないでくれ信号をこんなに発しているのに、
私が言うことをきかないからだ。