喫茶店にて(1)
白い壁。
白い壁に、写真の入った額が、
淡い灰色の陰をわずかに落としている。
その写真はモノクロで、パリのようだ。
カフェの様子。シルクハットとひげの紳士に、
日傘をさして髪を結い上げている御夫人。
明るいカフェテラスであいさつを交わしている。
礼儀正しく。
ふーん、こんな時代もあったんだなあ、と私は思う。
もしこの時代のパリに生まれていれば、
この写真と同じように佐々丘さんもひげをはやして
シルクハットをかぶって、
私もこんなドレスを着てカフェに入ったんだろうか?
中でサティがピアノを弾いていたらいいなあ。
……でももしその時代でも、
やっぱり佐々丘さんはあんなふうな目をしてるんだろうな。
同情的な、哀れむような目。
どこか遠い目。うつろな目。
何色だろう?
……きっと青だな。
深い深い青。悲しい青、澄んだ青だ。
そんな目で私を見ながら、
人を見下すような、感心するような感じで
「ふーん」と言うんだ。
「ふーん」(君はそう思うんだね。まあ僕はそうは思わないけど)
そう言ってるように聞こえたりもする。
でも佐々丘さんは決して反論したり言い返したりしないで、
黙ってじっと私を見守っているように思える。
「今に分かる。君は知らないだけだ」
そう言ってるようにも思える。
あ、コーヒーが冷めてしまう。