実験(2)
さっきのめたもうはそのままエレベーターで改札まで行ってしまった。
次は佐々丘さんが見る番である。
「毎日見てるから別に今さら見る必要もないんだけど」
そう言いながら眼鏡を外した。
「あれ、佐々丘さんって遠視なんですか?」
「え?」
「眼鏡外したから」
「ああ、これは伊達眼鏡。度が入ってないんだ」
「……?」
「めたもうがうっとおしいから、普段はかけてる。
ガラス1枚挟んだだけでも、けっこう効果あるよ」
私はそう説明を聞いた後、エレベーターのスイッチを押しに歩いていった。
歩きながら思っていた。
(佐々丘さんは眼鏡でガードしなきゃやってらんないほど
めたもうをたくさん見ているんだ……。
佐々丘さんの目に映る世界にはめたもうがうようよしているんだ)
スイッチを押し、佐々丘さんの元へ戻る。
そのとき佐々丘さんは目をこすっていた。
「見ましたか?」
歩きながら私が振り返ると、エレベーターのドアが閉まるところだった。
私は今度は見なかった。
「いや……」
佐々丘さんは、おかしいなあ、といった口調だ。
佐々丘さんは戻ってきた私の顔を不思議そうにじっと見た。
それからエレベーターの方に顔を向けた。
「今、見えた。めたもうが閉じたドアの前でエレベーターを待っていた」
「ええっ?」
そんなシチュエーションもあったのか、と私は振り返るが、
私には何も見えない。
もう消えてしまったのか。