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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第六章 華陽大帝国
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第93話 貴爵(1)

 霊明祭は想像以上の盛り上がりを見せていた。普段から祭りというものに触れてこなかったのもあるが……まさかこんなにも人が集まるとはな。どこを歩いても話し声が聞こるし、どこからでも飯の匂いがしている。


「ミラは霊明祭初めてだっけ? 去年とか来てないよね?」


「わざわざ来ようと思わなかったからなぁ……。学園の外でもやってるだろうにすごい活気だな」


「街と学園ここじゃ雰囲気が違うからね。まぁでも街の方が人は多いよ。夜なんかは花火とかもやるから特にね」


「へぇ……。でもこれじゃどこ回るか迷うな。どこでも人が多いから……」


「まぁまずはご飯でも食べに行こうよ。そしたら霊明武会の決勝とか見に行こ。ミライアちゃんが残ってるみたいだから」


 霊明武会はこの祭りのメインイベントだ。確か決勝は夕方の五時とかだったか……。カミュールとヴァンルージは善戦はしたものの、決勝に残ることはできなかったようだ。


 序列三位であるミライアが残ったのは流石としか言えないが……気になるのは対戦カードだな。


 オレとルーシュは二年のやっている喫茶店にご飯を食べにきた。やけに高いがこれがお祭り価格というものだろうか。物によっては二倍近い値段になっている。それでも買う人がいるんだから儲けるわけだ。


「ルーシュは何か見てみたいものはないのか?」


「さすがにちょっと疲れてるからなぁー……正直ゆっくりしてたいよ。ミラと一緒なら何をしなくても楽しいからね」


「そっか。まぁルーシュがそれでいいならいいか。ならちょっと休憩してから闘技場の方に行こう。早く行かないと席が空いてないかもしれない」


「そうだね。たぶん盛況だろうから……三十分前には行っておこうか?」


 店の中で少しばかり時間を潰してから闘技場に向かった。人の流れが激しいために、歩くのにも苦労はしたが、十分と少しでたどり着いた。


 人混みを分けながら進んでいったが、席はすでに満席だった。座るのは諦めて立ったまま観戦するしかないか……。


「……ん? おぉ、帰ってたのか。ルーシュ、ミルアルト。帰ってたなら一言くらい伝えてくれれば良かったのに」


「ジンリューか。帰ったばかりだったから、悪かったな」


 歩きながら寄ってきたのはジンリューだ。生徒会の制服を着ているからすぐに分かったが……そういえばオレとルーシュは学園の制服しか着てないけど……まぁいいか。別に今は生徒会として動いてるわけじゃないもんな。


「忙しかったら何か手伝おうか? ルーシュは嫌がるだろうけど」


「うん、嫌」


「はっはっ! いやいや、要らないよ。君達は疲れてるだろ? しっかり休みなさい」


「流石会長! 懐の大きさが違うね!」


「……君は疲れてなさそうだね。まぁいい。それよりミルアルト、君は今日は気をつけた方がいいよ」


「え? なんで?」


「いやまぁ……説明しても無駄だししない方が面白そうだから詳しくは言わないが……。まぁ厄介な奴がいると思ってくれればいい」


 ジンリューはそう言い残して立ち去った。……いや、立ち去って欲しくはなかったのだが……。誰かが来てるのか?


 彼の口調からして危険な人物というわけではなさそうだが……絶妙に濁した話し方をしやがって……。そういうことはちゃんと説明してほしいものだ。


 ただまぁ、多少面倒だというだけで取るに足らない内容ではあるんだろうな。


 どうにもジンリューの言葉が気になったが、考えているうちに決勝が始まろうとしていた。


 ミライアは炎と風属性の魔力を扱うという珍しい多属性タイプだ。攻撃力に特化している代わりに他の属性と比較すると対応力に欠ける破壊の代名詞でもある炎属性と、攻撃力がやや乏しい代わりに対応力の高い万能の風属性。この二つは数ある属性の中でも最も相性が良いと言っても過言ではない。


 彼女は能力スキルこそ発現していないが、魔力特性だけで三位の序列を持っているのは伊達じゃない。普通に考えれば大半の者には勝てるだろうし、優勝すると考えてもいいだろう。


 しかし、そんなミライアと向き合うように闘技場に入場してきたその人は、全ての観客の目を奪った。その魔力量はどれだけ離れていても感じられると思えるほどに多く、重かった。


 量だけなら八星級にも匹敵するほどだ。ジンリューと戦ったとしても引けを取らないほどに強いだろう。そして注目される理由は魔力だけではなかった。


 黒く美しい長髪に黄金の瞳……離れたところからでも分かるほど美人だった。歳はオレ達とあまり変わらないくらいか。しかしそうとは思えないほど儚さも感じる……


「……ねぇ、もしかしてミラさ。あの人のこと可愛いなって思ってる?」


「どっちかといえば綺麗な人だなと。ルーシュほどとは思ってないけど」


「……そっか……」


 ルーシュは少し不機嫌そうにしていたが、すぐに調子を取り戻した。実際、オレが気になっているのは彼女の美しさではない。


 一つはその髪色だ。黒い髪というのは珍しい。オレは今は白くなってしまっているが、前は黒い髪でよく珍しがられたものだ。


 瞳が黒かったから、というのもあったが……オレほどに真っ黒な髪はユリハ様くらいしか見たことがない。だからこそ、彼女にはちょっとしたシンパシーを感じる。


 その上、髪色以上に何か、何かは分からないがオレと似通ったものを感じる……。そしてもう一つ、これが最も気になっているものだが、彼女の出身が華陽だということだ。

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