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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第五章 ロウドン
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第90話 ロウドンの戦闘(3)

 時は少し遡り、カルテッドが斬り伏せられたときのこと。彼に洗脳されていた兵士達、そして国王と第一王子が正気に戻った。そしてそれにいち早く気づいたのは戦闘中であったガラリネオとC72だった。


「アイツらは上手くやったみてぇだな! 俺達ァ大取りだぜ!?」


「参ったな……。カルテッドの野郎との接続も切れちまった……どんな負け方をしたってんだ……」


 こちらの戦闘は依然として停滞……いや、ガラリネオが次第に押されつつあった。水の鎧は非常に強力だ。しかしC72の貫通力はそれを上回っていた。


 拳の一つ一つが砲弾のように重く、体重を乗せた蹴りは並みの兵器と比較にならないほどの破壊力であった。加えて雷属性の魔力がその強さに拍車をかけていた。


 雷に乗せられた衝撃は鎧を貫通し、少しずつ、けれど確実にガラリネオの身体を焼いていった。C72は能力スキルは一切使わなかった。いや、持っていないから使うも何もなかったのだ。


 つまり彼の強さとは魔力制御と身体強化、素の身体能力から来る単純で圧倒的なパワーなのだ。故に小細工などはことごとく払いのけられ、魔法師のガラリネオは殴り合いを強制されていた。


「はぁ……はぁ……。さっきから痛ってぇなぁ!」


「お前が頑丈タフなのが悪ぃんだぜ? もっと柔ければ痛い思いはしなかった」


 両者ともほとんど拮抗した戦いによって疲弊していたが、余裕の大きいのはC72の方であった。


 殴り合いでは押され、距離を取ろうとすればそれ以上の速度スピードをもって隙を突かれる。得意の大規模魔法も市民に被害が出る可能性を考慮すると発動さえできない。


 たとえ結界があろうともC72を倒すほどのものとなると耐えられる保証など一切ない。しかしこの程度の不利ハンデで八方塞がりになるのなら、彼は“法帝”の名を賜ってはいないだろう。


「……そろそろ精算をしようか」


「何?」


「殴られた回数、106回。蹴られた回数、38回。壁に打ちつけられた回数、19回。……拘束された時間、“34分”」


「数えてたのか?」


「正確性は高くないがな。たぶんこんくらいだ。もう充分だ。俺もそろそろ反撃といこう」


「……!?」


 瞬間、一帯の空一面を水の線が埋め尽くした。当然その数は100や200では収まらない。その一本一本が矢であり槍であった。


 魔法師の神髄は環境の支配にある。ガラリネオは削られた鎧からでた水分を伝って大気中の水へと魔力を流した。それを何度も何度も繰り返し、一帯の水を己の支配下に置いたのだ。


「利子は10倍でいいかァ!?」


「ッ……!!」


「『落水盤面オルフォール』!!」


 空から降り注ぐ雨は、地面に落ちると細く深い穴を空けた。2メートルほどだろうか、まるで元からあった穴に吸い込まれるかのように落ちていった。


 C72は身体中に穴を空けながらも魔力による防御で致命傷は避けていた。水を弾き、逸らしながら降ってくる雨を数十秒間耐えた。


「ふぅ……これで終わりか?」


「コレで終わるなら法帝なんかにゃなれねぇよ!」

「『大海大波たいかいだいは』!!」


「この程度……ッ!!」


 地下に沈んだ大質量の水が噴き出し、津波のようにC72を飲み込んだ。最初はただ水の塊が傷口を刺すばかりだったが、一転、温度が急激に低下し氷の山が出来上がった。


 魔力も込められているためにその硬度は鉄を遥かに凌駕している。が、それだけの硬度でもC72に対してはほんの少しの足止めにしかならない。


「はぁ……あと一押し……!」


「この程度! この俺に通用するとでも……!!」


「……!? ……ハッ!」


 巨大な氷壁を破壊してC72がガラリネオを襲おうとしたその刹那、どこからか炎の矢が彼の肩を貫いた。その矢は実体を持っていない、ただ魔力の塊であった。


 しかし魔力の塊がどうしてこれほどまでの威力を持っているのか、彼には理解できないことだった。


「生意気な小僧め! まさか本当にこの俺様を助けるとはな!!」


「ま……待てッ……!!」


 ほんの一瞬生み出された隙が、勝負を決するに充分な時間を作り出した。ガラリネオは破壊されかけていた氷壁を全て拳に圧縮し、それを全魔力をもって強化した。


 拘束の解けたC72は回避しようと試みるも、肩から焼かれる痛みのせいで速度スピードで勝つことはできなかった。


「『海穿ギュード』!!」


 拳から放たれた高圧の水の中には氷塊も混ざっていた。そしてそれがC72の身体を貫き、結界をも破壊して空を貫いた。


 これから数十時間、この場所には魔力による空間の歪みによってやや小規模で高湿度の竜巻が生成されたという。

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