第87話 異常者(3)
刀に魔力を込め、カルテッドに斬りかかった。……苦しいな。予想はしていたが、どうにも刀を振るのが辛い。
刀を握るだけならまだマシだが、振ろうとすると心臓が急に痛くなる。これもこの前幻術にかけられたせいだろう。戦うのを恐れているみたいだ。
「お前……なぜ歴史の破壊者に加担する? 国民を苦しめてまで、何が目的だ?」
「あの方の創る新世界に、僕も行きたいからさ。そうでなければ殺されてしまうからね。逆になぜ、君達は逆らおうとする?」
高速の突きを回避しながら聞いた。的確に首や頭を狙ってくるが、回避するのは難しくないな。迫ってくる細い刃を払いのけ、バク転をしながら距離を取った。己の命と大勢の命、天秤にかけられるものでもなかろうが……
「……人が大勢死ぬからだろ。綺麗事を言うつもりもないが、どっちにしろ地獄を見るんだ。マシな方を見たいだろ。まぁ……その判断を責めようとは思わないが」
「……? 人が死ぬことの何が問題だ? 自分が生きていればそれでいいだろう?」
「自分が何人も殺してるくせに……偉いんだな、お前は。地獄に堕ちろ」
「分からんな。僕が殺した人間なんていないじゃないか」
糞みたいなヤツと会話をしていると、言葉にできないほど腹が立つことがある。そして一周回って冷静になり、沸き立つ心に蓋をする。
しかしそれは怒りが収まったわけではなく、それゆえにもう一度腹を立てるとこの苛立ちを止めることはできない。
「お前が戦争を起こしたんだろ……? 罪を犯して行方不明になった者もいるそうじゃないか。お前が直接手を下したわけではなかったとしても、お前が命を奪ったことには変わりない」
「君なぁ……死んだ人間はもうこの世界にいないんだ。それを今更何を言っている?」
「……! 戻ってこないからこそだろ! 命はいたずらに奪っていいものじゃない! 失われた命は、無念はどうなる!?残された者達は!?お前が殺さなければ、今もなお生きていただろうが!」
「ああ! そういうことか。安心したまえ。悲しみが残らぬよう、家族はちゃんと殺しておいた」
「……ッ!」
……あぁ、そうか。コイツは住んでいる世界が違うんだな。説得できるような人間じゃない。話し合いが成立するような人間じゃない。悪魔のような男なんだ。コイツを人間として扱う方がよほど無理があるというものだ。
「貴様はしっかり叩きのめす。死んだ魂が成仏できるように」
「何度も言わせるな。ない者を追ってどうするのだ」
***
ミラがカルテッドとの戦闘を始めた直後、“海帝”ガラリネオは兵士達の注意を引きつけながら城内を走り回っていた。壁や扉を破壊しながら回っているために、部屋を一つ越えるたびに彼を追う声が増えていった。
「だっはっはっ!!とろいわ貴様ら! その程度で王を守れるのかァ!?」
城内には愉快な声が響き渡った。彼も当初はしっかり調査をしようと考えていたのだが、コソコソと動くのは性に合わないと暴れ始めたのだ。
「まったく……こんな夜中によォ……何騒いでんだテメーはよォ!」
「うがッ!」
走り回っていたガラリネオを、男は正面から蹴り飛ばした。法帝である彼を、油断していたとはいえ正面から衝突できる者は多くない。少なくともロウドンには、そんな人間はいなかったハズだ。
「痛ってて……。誰だ……?」
「俺はC72、覚えなくてもいいぜ。どうせ殺すからな」
「C? ……あぁ、なるほど! つまり俺様はアタリを引いたっつーわけだな! くっくっ……小僧共に取られなくてよかったぜ!」
「なら俺はハズレだな。もっと楽に終わる相手が良かったぜ」
「安心しろ! 俺様が相手じゃ長くはもたねぇよ!!」
「『大洪水』!」
「ぬあッ!」
ガラリネオの振りかぶった両手から、津波のように大量の水が出現した。その水量と水圧によって周辺は崩壊し、誰も彼も押し出された。抜けた壁から外を眺め、地べたに寝転がったC72を見下ろした。
「さぁ! 仲良く殺し合いといこうぜ! 歴史の破壊者!!」
「……いいぜ。テメーを首を王への手土産としてやる」
互いに高まった感情をそのままぶつけ合った。遠慮はしない。その首を貰う。そういったことを二人は伝え合った。




