第84話 記憶(2)
オレとルーシュは日が落ちるまでは部屋で休憩し、夜の0時を過ぎてから上級街、王城へと向かった。裏から回るためにそこそこ時間がかかったが、ガラリネオさんはまだ来てなさそうだ。
「しかしアレだな……白髪が目立ってきたな。そのうち全部白くなっちまうんじゃねぇか?」
「白い髪もカッコいいよ?」
「いやまぁ……髪の色が変わるのがダメっていうよりその原因が問題なんだが……」
リュウラ先生から貰った薬のおかげで普段の精神状態はだいぶ安定しているが、それでもストレスが無くなっているわけでもない。悪夢を見るのはいつものことだし、常に心を擦り減らしている気分だ。
ルーシュの前だから弱みを見せてはいないが、部屋で一人のときはいつも目を瞑って自分を落ち着かせることに努力している。酷いときは相変わらず息が詰まってしまう。
セリアがいなければ己を見失って自分に殺されていたかもしれない。弱音を吐きたくはないが、それほどにしんどい。
「そんなことよりルーシュは大丈夫か? もしかしたら殺し合いになるかもしれないけど……」
「私を誰だと思ってるの? 天下のルーシュ様よ! それこそミラと殺し合いにでもならない限りは誰にも負けないよ!」
「そっか。できればオレにも負けないでくれ」
オレがイスダンに行っている間に、ルーシュは七星級にまで仕上げたらしい。もともとそれに匹敵するだけの実力はあったが、それがさらに引き上げられたのだ。
オレは五星級に昇級してから全くと言っていいほど魔力は成長していないのに……。まぁ嫉妬したところで何も変わらんか。
「おいおい! 俺様を差し置いて天下たぁ言ってくれるじゃねぇか!」
「何か問題でも? いずれはミラが世界最強に、私が二番目になるんですから」
「変に謙虚だな。ガラリネオさんも静かに頼みますよ。夜中とはいえバレちゃいますよ」
どこからともなく、ガラリネオさんが大声とともに現れた。市民もそうだろうが、特に王城の兵士達は見張りをしているだろう。それらにバレずに侵入しなければならない。
「ああ、そうだ。お前らにはコレを渡しておこう」
「……? 何です? これは……」
ガラリネオさんからオレ達は二つずつ護符を渡された。こういうのは何かしらの魔法か条約が刻まれたものだろうが……政府が作ったものではないな。政府の紋章が書かれていない。となると魔法札か。
「小さな陣が刻まれている方が防音魔法だ。足音などは消せる。そして大きい陣が保存結界、戦闘になればコレを発動して結界を張れ。効果は一時間といったところだが、外界と完全に遮断できるからな」
「……街中で発動したら市民が結界内に入らないですか?」
「安心しろ。魔力の少ない者は勝手に押し出される」
「……範囲は?」
「半径200メートル程度だ。建物が崩壊しても気にするな。政府で揉み消すからな」
……気にしかならないが……まぁいいか。何も対策せずに街中で戦うよりはよっぽどマシだろう。戦闘にならなければいいだけ……とは思うがそう楽にもいかないだろうな。
「どう動きますか?」
「基本は同じだ。俺が一人、お前らが二人だ。鍵はお前が持っておけ。俺は強引に動いて兵士どもを引きつけておく」
「……あまり殺さないでくださいよ」
「極力はな」
この人を自由にさせていいものなのか……とはいえ手綱を握れるわけでもないか。心配はあれど諦めるしかなさそうだ。
オレ達は一階の窓から侵入し、そこから二手に分かれた。執務室に行きたいところだが……カルテッド様から城の地図くらい貰っておけばよかったな。せめて何階にあるのかさえ聞いておけば楽だったかもしれない。
廊下にはいくつもの感知機、魔力を感知して有事には警報を鳴らすものが設置されてあった。それを避けることは難しく、破壊してしまえば当然兵士がやってくるだろう。
ガラリネオさんはそれを気にせずに走り回っているようだが、幸いにもオレの魔力が魔力の波動を消してしまうためにオレ達はほとんど無視することができた。
「……? 倉庫か? ……いや、違うか」
適当に大きめの部屋を開けて進んでいくと、そのうち書類が山積みになった部屋に当たった。よく見ると机と椅子があるからここが執務室だろう。
もはや人が働けるようにも見えないが、しばらく使っていないのだろうか? ここに手掛かりとなるものがあらばいいが……
「オレは机周りを確認しよう。ルーシュはその辺の山を見てくれ」
「分かった!」
書類の文字に目をやると、色んなことが記されてあった。税収や地方からの報告、予算や決算など、気になるものはいくつかあったが今見つけるべきものはすぐには見当たらなかった。
机の中も見てみたが、歴史の破壊者に繋がるようなものは見当たらない。これだけの数があれば中にはあるのかもしれないが……途方もないな。
書類を見て一枚ずつ退けていくと、一つ、目に留まった。いや、もともと目に留まってはいたものの、気にしていなかったのだ。
ただコレならば何か書いてあるのではないか?
そう思って手に取ったものは数年前の国王の日記だった。




