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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第五章 ロウドン
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第83話 記憶(1)

 夜を迎え、オレはボロボロに崩れているベランダから空を眺めた。どんな国であれ、どんな状況であれ、夜空に浮かぶ星の輝きというものは美しいものだ。


 この夜は今まで経験したことがないほどに冷えているが北の空には今まで見たことのない美しい光の線が走っていた。オレの口から出た白い息が月もその光も包み込み、遮られた輝きからはどこか儚さも感じる。


「……寒くないの?」


 部屋から出てきたルーシュが両手を擦り合わせながら尋ねてきた。身体が震えているルーシュの方がよっぽど寒そうだがな。


 ……だからこそ心配してくれているのか。そんな彼女を夜風に晒すわけにはいかないと部屋に戻ろうとしたが、裾を掴まれて止められてしまった。


「……セリアの魔力があるからな。オレはあんまり寒くないよ」


「なんかズルいや……」


 ルーシュの震えは寒さからきたものだとばかり思っていたが、どうやらそうではないらしい。


 オレは自分の上着をルーシュに羽織らせてからそっと抱き寄せて頭を撫でた。オレの魔力で彼女を包み込むと、抱え込んでいたものが溢れるように涙が零れ落ちた。


「ねぇ、ミラ……。私……この街、見たことある……」


「……戦争で弱った街はどこも似たようなもんだ。ここはパンバールじゃない。心配するな」


 ルーシュの故郷のことについて、ルーシュが幼い頃の生活について、オレは深くは聞いたことがない。それでもときどき聞いてきた話からルーシュの感じていることはなんとなく分かる。


 たぶんルーシュは戦争のことを思い出しているんだ。辛い記憶だろう。そんな記憶を思い出してまで、オレのために頑張ってくれているんだ。とは言っても簡単に克服できることでもないだろう。


「何が怖い? オレが死ぬのが怖いのか? オレは死なねぇぞ」


「私の手の届かないところで、私の大切な人が死ぬのが怖いんだ。……私の力の及ばないところで、命が失くなるのが怖いんだ。ミラが死ぬのが怖いんじゃない………昔の記憶が怖いんだよ……。無理言って連れてきてもらったのに………私はダメだ……」


「……別に怖いのはいいだろ。わざわざ乗り越える必要はない。ルーシュができないことはオレがするから、オレにできないことをルーシュがしてくれ」


「……うん……!」


 少しばかり二人で夜空を眺めてから、オレ達は部屋に戻って眠りについた。本当は別々の部屋で寝ようと思っていたのだが、何が起こるか分からないからと説得されて同じ部屋で寝ることになった。


 寝る直前に精神安定剤を飲んだおかげで夜中に目が覚めることも少なかったが、朝起きてすぐ隣にあったルーシュの顔を見たときは普段以上に呼吸が苦しくなってしまった。


 なんとか深呼吸をして心拍を安定させたが、やはり厳しい部分もあるのかもしれない。


 その日は日中は中級街に出かけた。ここは人が多いとは言えないが、極めて普通の街といった雰囲気だった。


 下級街から働きにきていると思われる人達を除けば特別苦労している様子はない。むしろ戦争中だと考えれば余裕のある生活をしている者がほとんどだった。


 ただしそれが良いとも思えない。中級街の者達は下級街から働きにきた者達を酷く虐げていた。罵り、足蹴にし、嘲笑っていた。


 そんな光景を許したくはないが、騒ぎを起こすわけにもいかない。ルーシュの制御が効かなくなる前にオレ達は下級街へと戻った。


「面白い情報はなかったな……。第二王子が中級街のヤツらにも支持されてるくらいか……」


「意外だよね。下級街に良くしてるんだから煙たがられててもおかしくないと思ってたんだけど……」


「まぁアレか? 国王も第一王子も戦争を勧めるような人だ。今は上手くいっててもいつ自分達が下級街の人間のようになってもおかしくない。安心できるのはカルテッド様ってとこなのかもな」


 ロウドン王も第一王子……ガウデン様も王妃が亡くなってからはおかしくなったと聞いている。民に優しかったのに一瞬にして残虐な方になったと。


 いつ切り捨てられるか分かったものではない。変わらず民を想い続けているカルテッド様を応援したくなるのは当然のことだろう。


「……しかし気に入らんな。王が変わろうと人は変わらないぞ。カルテッド様が国王になれば確かに民は喜ぶだろうが……」


「確かに、差別主義の人が多いもんね。この国。……お金があることを偉いことだと思ってるんだもん。下級街の人達が報われるならいいんだけど……」


 よそ者であるオレ達が口を出すべきでもないのだろうが、下を作って見下しているようなヤツらは気に入らない。上に見下されようとも一生懸命に生きているヤツらが報われるべきだ。


 しかしそれはカルテッド様が王になろうとすぐには変わらないだろう。


「しかし相変わらず歴史の破壊者(デスティニー)の目的が分からないな……。カルテッド様を放置してるってことは邪魔じゃないのか? あるいはいつでも消せるからか……。国を落とすつもりなら民に支持されているようなヤツはどう考えても邪魔だよな……? わざわざ国王と接触しているわけだし……」


「うーん……。それさえも利用してる可能性は? そもそも国を落とすんじゃなくて自分達の傀儡にしちゃって、そうしたら動きやすくなるでしょ?」


「……それなら国王をそのまま利用するだろ。支配下に置くことが難しいとも考えられん。国民の支持がある王子を王位に就かせるのは分かるが……今は国王の評価を落としているからな。そんな無駄なことをするとも……」


「じゃあただ面白がってるだけとか?」


「いやそれは…………無いとは言えないか……。何の計画もなく動いてるとは考えられないが、カルテッド様に関しては面白いから放置してるって線は充分にあるな」


 歴史の破壊者(デスティニー)がどんなヤツらなのか、未だによくは分かっちゃいないが、やるかやらないかで言えば間違いなくやるヤツらだ。


 そしてヤツらの目的など関係ない。片っ端から沈めていくのがオレ達の目的だ。


 ……いい加減、できれば生け捕りにしたいな。口を割るようなヤツらだとは思わないが、殺してしまうよりは得られる情報もあるはずだ。

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