第81話 イカれた王(2)
「とりあえずこの辺りを回ってみよう。それから少しずつ都市部を見ていけばいいか?」
「うん。それでいいと思う。そうしよう」
オレとルーシュはボロボロの街を見て歩いた。戦争中と聞けばそれも納得できないこともないが……異様にここの住民は疲れ切っているようだった。
生きているのに疲れたような、そんな目をしていた。……貧民街というものか。まずはこの国の情勢について聞いておきたいな。
「すいません! そこのおっちゃん! ちょっとばかり話をいいか!?」
「ん? 見ねぇ顔だな? ……まぁ話くらいなら構わねぇぞ。今日は休みだしな」
街で偶然見かけた中年の男性に声をかけた。扉のない石造りの家に上げてもらい、そこの席についた。茶や軽食は断ったが……少し話をしようと思っただけなのだがな。歓迎されているというわけでもなさそうだが……。
「君達は外国の人だろう?」
「そ、そんなんじゃねぇよ。オレ達ゃここの国のもんよ。見りゃ分かるだろ?」
「隠す必要はない。通報はしないさ。したところで君達が逃げたら処されるのは俺の方だからな」
「……この国のお偉いさんは変わってるんだな」
「……ロウドン王はな……王妃が亡くなられてから大きく変わってしまった。第一王子もそうだ。イカれちまったのさ。今もなお我々の味方となってくれるのは第二王子だけさ」
「王妃はなんで亡くなったんだ?」
「ここ……下級街と呼ばれる街だが、ここで何やら感染症を患われたらしい。あの方は平民にも分け隔てなく良くしてくれてな。あのときはまだ下級街もずっとマシだった」
……となると戦争のきっかけは国王だろうな。当然と言えば当然だが、有力な貴族と歴史の破壊者が接触した可能性は低い。やはり調べるのは王城が最優先だな。
「……ねぇ、あなた達の生活は苦しそうに見えるけど、街の中心の人達はそんなこともないわよね? あなた達が働いてないわけでもないっぽいし、どういう状況なの?」
「……王は下級市民に酷く重い税を課しているんだ。貴族達には簡単に払える程度しか課していないがな。戦争の負担をほとんど俺達に負わせているから、逃げ出す者も少なくない。その者達がどうなったかなど知らないがね」
「そんなことをしてたら国が滅ぶぞ?」
「外国の人は知らないのか? 王は何やら“金のかからない兵力”を持っているらしい。その代償に国民が殺されているとかいないとか……。だがこれでは戦争に勝ったところでいずれ国が滅ぶのは確か。王の目的は分からないが、まぁおかしくなってしまったのだろう」
国を滅ぼすことが目的か? そもそも歴史の破壊者の目的が分からないからな……
金のかからない兵力というのは魔物か何かだろうが……そうなると歴史の破壊者の目的は金じゃないよな。……賠償金がという線もないことにはないが……そんな回りくどいことをするか?
そもそも国を二つ落とすことぐらいわけもないと思うが……まぁそれはカモフラージュでもしてると考えればいいか。
「俺が言えることはこんくらいだな。君達はなぜこんな国に来たんだ? 深くは話さなくても構わないが……」
「……この国の裏で糸を引いてる組織に用があってな。潰せるようなら潰したいんだ」
「子どもがか?」
「問題ない。オレ達は強いからな。それより……夜を過ごせる場所が欲しいんだが、どこかあるかな?」
「下級街ならどこでもあるさ。空き家ばかりだからな。中級街や上級街ならホテルや宿もあるだろうが、高いからな。それにここの通貨は持っちゃいねぇだろ?」
「そうだな。よし。世話になった。これはほんの礼だ」
オレはセリアの空間収納から少しばかりの肉と野菜を置いて家を出た。
全ての国民を救うことはできないが、手の届く人は助けてやりたい。全ての国民を救う手があるとすれば、それは戦争を止めることくらいか。
「……ん?」
下級街を歩いて中級街の方向へと歩いていると、前から三人組が歩いてきた。警察や衛兵ではなさそうだ。
雰囲気からすると用心と護衛というような感じだが……そんなヤツが下級街なんかに来るか? 何者だ?
警戒しながら歩いていると、先頭を歩いている男が話しかけてきた。
「見ない顔ですね。外国の方かとお見受けしますが……」
「ははっ。ご冗談を。少し散歩していただけですよ」
「それはまた趣味が悪いですね。互いに話があるでしょう? 城に案内しますよ。グランデュース=ミルアルト殿とアリベル=ルーシュ殿」
「……まさか王族の方で? 確かに聞きたいことはありますが、大人しく連行されるわけにもいかんのですよ」
「逃げるのなら構いませんよ。しかしまぁ……あなた達を通報しなかった方には相応の対応をさせていただきますが……」
「……大人しくついて行けば?」
「黙認しましょう。少なくとも悪いようにはしないと約束します」
「……ルーシュ」
「いいよ。最悪全部倒して逃げよう」
「よし。あなたに従いましょう。約束を守っていただけるなら」
「ええ、もちろん。ではこちらに」
どうも胡散臭いというか……上っ面ばかり良くしているようにしか見えない。が、オレ達に対して悪意だったり敵意だったりを抱いてはいない。
妖刀はそういう負の感情には敏感だ。だからその主であるオレにもそういった感情が多少は伝わってくる。
しかしこの王子からそれらは伝わってこないから変に警戒すべきでもない。オレ達が敵対しようとしなければとりあえずは大丈夫だろう。
少し歩いたところで魔導車に乗り、そこから中級街、上級街へと進んだ。中級街は栄えた街で、上級街は貴族の屋敷が並んでいた。
彼らの先祖は努力しただろうが、今最も努力しているのは間違いなく下級街の人間だ。この理不尽な光景にオレは多少の怒りを抱いていた。




