第80話 イカれた王(1)
——妻が死んだ。スラム街で病気を患ったからだ。妻はいつも国民のために尽力していた。王妃となろうとも決してその権威に威張らず、常に身を粉にして民のために働いた。私はどうすればいい? 答えは簡単だ。妻の無念を晴らせばいい。これ以上私の大切な者を奪われるわけにはいかない。妻の愛したものを失くすわけにはいかない。私は国民と大切な息子達のために働こう。そうでもしないと死んだ妻に顔向けができないというものだ。
「さて……一人ずつ確認しようか。君達には私が直々に罰を与える」
「……!」
薄暗い部屋の中に、椅子に一人とその部下が一人立っていた。そしてその前には床に座った三つの家族があった。
夫婦が一つ、母と子どもからなる家族が一つ、子どもを持つ夫婦がなす家族が一つだ。椅子に座った男は剣を抜き、左から順に話しかけた。
「まず君達は税を納められなかった罪だ。国に貢献できない者は国民ではない。言い訳はあるか?」
「税が重すぎます……! 私の命は軽いものですが……どうか妻の命だけは……ッ!」
「うぅ……!!」
男は妻の命を乞う男の首を飛ばした。無慈悲に、しかし彼の気持ちに対しては確かな敬意を持っていた。
「素敵な愛情ではないか……。己の命以上に妻のことを想っているとは……素晴らしい夫を持ったものだな」
「う……うぅ……はい……!」
「ならば君一人生きていても辛いだろう。すぐに後を追わせてあげよう」
「なッ!」
夫の首が飛んだわずか18秒後、その妻も同じように首が飛んだ。その光景は極めて残虐に写っていたが、当人は心からの善意であった。ただそれ故に事実、酷く残虐だった。
「さて、次だ。君達の夫が戦場から逃げ出した罪だ。すでに彼は殺したが、君達も責任を取る必要がある」
「……旦那の罪は! どうか旦那と私の命でお許しください! 娘はまだ若く……大きくなればいずれ国に貢献できるでしょう! ですからどうか……!」
「ママ、ダメ! ママが死ぬなら私だって……ッ!」
娘の懇願虚しく、母親の首は飛ばされた。離れた首から溢れ出した血が娘の顔にかかり、彼女の視界は闇と恐怖に奪われた。若くして最初に感じたの恐怖は死に対するものだった。
「あ……あッ……!」
「可哀想に。君も母親のために死にたがっていたね。僕が叶えてあげよう」
娘の細く柔らかい首も、血のついた鋭い刃によって落とされた。残る家族は一つとなり、男は彼らの前へと足を運んだ。
「君達は窃盗の罪だ。父親が中級街で盗みを働いたね? 重い罪というわけでもないが……償いはせねばならん」
「……ならば私の罪は妻と息子達が被ります! ですからどうか私の命だけは! お許し……!」
「薄汚い心を持ちやがって……! それでも君は父親か!?人の命をなんだと思っているんだ!!」
己の罪を人に被せようとする男の首を刎ね、さらに身体を滅多刺しにした。汚い精神に対して、怒りのままに剣を振るった。
「はぁ……はぁ……。さて、汚い男とはいえ君達の父親だ。最期の願いだけは聞き入れてあげたいだろう?」
「ま……待って……!」
正義の刃は無慈悲にも三つの首を落とした。全ての家族の処刑を終えた。男は剣をしまい、部下の方に目をやった。
「罪を犯す者など国民ではない。そして当然、死んだ者も国民ではない。さて、ここに私が守るべき“国民”はいましたか?」
「い、いえ! ただの一人も……!」
「そうか。なら問題ないな。」
***
空間転移でロウドンへとやってきたオレ達は寂れた雰囲気の街へと放り出された。普通に考えたら転移先は首都か主要な都市なのだろうが……ここは路地裏だろうか。
まぁ街の真ん中に急に現れたら注目されるなんてものではないからな。ただどこか不快な匂いがする……。
「よし。ここはロウドンの首都・シンバルだ。俺様は今から一人で動く。お前達は自由に動け。明日の深夜に王城の裏で落ち合おう」
「了解です」
そう言ってすぐにガラリネオさんは飛んでいった。
さて……ここはどんなところだろうか……。奥に行けば行くほど人が集まっているようだが、それを中心として円状に少しずつ人口が減っている。
オレ達がいるのはその最も人口の少ない層だ。ただずっと遠くには同じような構成で人が集まっている。まぁ都市だろうな。それがここ、シンバルを囲むように五つは確認できるが……。
……? なんでオレはそんなに遠くの魔力を、人を感知できているんだ……?
「ん? ……あッ! あー!」
「えっ? 何?」
「い、いや! なんでもない!」
「……そう?」
やってしまった……。精神安定剤が三日分しかない。よりによってルーシュと二人になることが多いだろうに……。
どうする? いや、戻れはしないからな……。最悪帰ってからすぐに貰えばいいが……まぁなんとかなるか。




