第07話 八星級戦力(3)
「…………私は?」
「? えーっと……というと?」
「なんかみんなカッコいい二つ名があるじゃない。私にはないの?」
「あぁ……一般には“天上の姫”でしょうか。“炎剣”とか“剣姫”とも呼ばれることはありますが」
「ふーん。まぁ悪くはないか。私だけカッコ悪かったらエスト達がズルいもんね」
セリアは歴史にはあんまり興味はないのか。いや、興味がないというよりは自分のことの方が気になっただけだろうな。うん、分かってはいたが、やはりそれなりのギャップを感じる。
「それで、なんですがね。言った通り神話の時代の記録はほとんどないんです。それで私からあなたにお願いなんですが、どうかあなたの知恵を私達に貸して頂きたい。歴史に空いた穴を埋めることは文明の発展に繋がるんです」
「……私としてもいくつか条件を出したいところだけど、お願いする相手が違うんじゃない? 私はミラの守護者なんだから」
「えっ!? オレ!? うーん……セリアにはオレの特訓をして欲しいんです。それに支障をきたさない程度なら構いませんよ」
オレは頭を下げた校長に対して言った。立場的にも彼の願いを拒むことは恐ろしいが、別に拒否するようなことでもない。セリアがオレの特訓の面倒を見てくれればそれは強くなるだろうが、それにばかり頼るわけにもいかないと思ったからだ。それにオレは授業もまだあるから。
「ミラがそう言うなら私はあなたに協力しましょう。……それともあなたお抱えの学者さんかしら? まぁ誰でも構わないのだけれど、私会いたい人がいるの。まずは今の時代の法帝達、それから当代の竜帝、ネフィル=ユリハ、そして……いや、やっぱそれだけでいいわ。……? っていうかユリハから知識を得れば良かったんじゃないの?」
「ユリハ様ですか。彼女は戦争以前の記憶は混濁しているらしいのですよ。私も詳しくは知りませんが。しかしセルセリア様の条件は飲みましょう。竜帝は十法帝の一人ですし、法帝を招集するのも難しくはありません。ユリハ様に関してはそう簡単に連絡を取ることもできませんが……尽力はしましょう。それでよければ……」
「ええ。それで構わないわ。私の名を出せば飛んでくると思うし、他の人達も会うためなら私の名前を出してもいいわよ」
「ありがとうございます」
セリアの口から出たのはどれも世界に知らない者はいないほどの大物だ。特にネフィル=ユリハ、“魔天皇”と呼ばれる彼女は法帝や中央政府と比べても別格の発言権を持っている。神話の時代から生き続けているのだから当然だ。なんでも魔族と呼ばれる長命種の血を引いていて、それに加えて彼女の能力によって寿命がないのだとか。築かれた地位に加え、獄境大陸で過ごしているために法帝でも簡単には接触できない。
「ユリハには会いたいなぁ……。あの子も大人になってるだろうけど、エストの話をできるのも現世じゃあの子しかいないものね」
「セルセリア様の話を聞いている限りはエスト様との仲も良かったようですね。やはり伝承なんてものは当てにならない」
「……? なんで?」
「気分を害さないで欲しいのですが、あなたの最期はエスト様に殺されたとされる話も少なくはないのですよ。あなたの様子を見るにそれは真実ではないようですが」
「なんでそんな………! まさか引き摺って……? いや、グラからは上手くやってるって聞いたし……。でもまだ負い目は感じてるのかも……」
セリアは何かをブツブツと呟いていた。よく聞こえないけれど、何かを深く考えているようだった。今までにないほど深刻そうな顔をしているからたぶん重要なことなのだろう。たぶん。
「どうかしたのか?」
「ん!? あ、いや! 私のことだから何でもないわ。それで一応確認しとくけど、当代の竜帝ってグラ……ジルダ=グラダルオの子よね? 娘だっけ?」
「ええ、そうですよ。だからお会いしたいのでしょう?」
「グラから天界で聞いたからね。せっかくなら会っときたいなって。それで話はこれだけかしら? ミラも早く授業に行かないと」
「ええ。何かあればその都度お知らせします」
そう言ってオレとセリアは校長室を出た。正直結構緊張した。なんというか、あの空間はプレッシャーで満たされていたからだ。あの部屋にいた者は全員オレの格上だったために、普通に会話するだけでも重かった。
「英雄というのは、なかなか恐ろしいものですね。彼女は間違いなく八星級に匹敵していると感じましたよ。まるで常に喉に剣を突きつけられているような……そんな感覚でした。現代の人間とは実戦の量が違うでしょうからね。レイジさんは普通そうでしたが」
「……普通なものか。セルセリア様はあれでもだいぶ魔力を抑えてるいらっしゃった。今の時代に生きていれば間違いなく八星級……いや、場合によっては九星級にもなるかもしれないな。少なくとも俺なんかよりはずっと強い。これは近いうちに勢力が大きく変わるぞ。早急に竜帝に連絡するんだ、アスダルト。“先代竜帝のご友人が現れた”とな」
「かしこまりました」
副校長、アスダルトはレイジからの指示を受け、すぐに魔法によってどこかへ転移した。
ここで少し語っておこう。
中央政府の役割は、世界中の規則の制定、経済の調整、それから戦争の抑制である。戦争については絶対条件に“宣戦布告”と“両国の同意”がある。それを破れば政府が強く介入し国は存続の危機となるわけだが、どの国も向上を求めたり思想の対立はするもので、進んで戦争をしようとする国も少なくはなかった。
ゆえに戦争を抑止するのは簡単ではないのだが、一つ、どの国も争いを躊躇する存在がある。それが圧倒的戦力、つまり十法帝だ。彼らが駐在していればその国には戦争を仕掛けることはまずできない。あらゆる武器、人員を投入しても打ち破られる可能性が高いからだ。
そんな中、彼らに匹敵する戦力を有するものが新たに現れた。中央政府には属さない自由戦力であるため、その存在が知られればどの国、どの組織も無視はできない。未だ一部の人間にしか知られていない機密事項ではあるが、それは紛うことなき、十一番目の八星級戦力の出現と言える。




