第75話 魔眼(2)
生気が感じられないというか、ハイライトがないように見えた。そしてところどころ白い髪が見える。
明らかな肌の若さに目を瞑れば、その容姿はまるで生きるのに疲れた老人のようだった。……コレがオレ…? 鏡という確実なものを見ても信じ難いことだった。
ショックというよりも、自分で自分が哀れに感じた。
「どうにも精神が回復しないようならいつでも保健室に来なさい。あと……コレを渡しておこう。精神安定剤だ。一日二錠飲めばある程度落ち着くだろう。それでも安心はできないがね。今はアリベル君が外で待っているだろうから飲んでいきなさい」
「ありがとうございます。……先生はルーシュと親しいんですか?」
「親しいというか……あの子はよく保健室に来るからね。生徒の中では割と話す方かな」
「? オレは知らないんですが、どこか悪いところがあるんで?」
「いや、ただ授業をサボっているだけだよ。よくベッドで寝ている。困ったものだよ」
「ああ……なるほど。オレから言っておきます」
「ただまぁ、リラックスできる場があるというのはいいことだ。あの子の場合はどこでもリラックスしているだろうけど……君もいつでも来ていいからね」
「はい。ありがとうございます」
オレはリュウラ先生から受け取った薬を一錠飲み、少し置いてから保健室を出た。
なるほど、魔力の流れを安定させることで精神にも影響を出すというものか。薬学は全く分からないからもちろんそれだけではないだろうが、即効性がすごいのはそのせいでもあるだろう。
「あ! ミラ!」
部屋を出るとすぐ横でルーシュが待っていた。まだ少し心拍は上がっているが、以前と比べるとずっとマシだ。それでもオレがしっかりしていないとまたおかしくなってしまうだろう。
「……もう大丈夫なの?」
「オレが大丈夫じゃなかったことがあったか?」
「あったでしょ。……もう」
ルーシュは呆れたような声で言いながらいまだに震えているオレの手を握ってくれた。想像以上に温かい手だった。
……違うか。オレがなぜか勝手に彼女の手を冷たいものだと思っていたのだ。
オレは鈍い方だが流石にある程度の予想はつく。きっと幻術の中でルーシュと、そして面識のあるあらゆる人達と“何か”があったのだろう。その“何か”が何なのかは分からないけれど、想像したくないほどのことが起こったのだろう。
……殺し合いでもしたのだろうか。それを夢だ幻だと割り切っていれば今のオレのようにはなっていなかったのか? それか割り切っていてもこんな精神状態になっているのか。
だとすれば殺し合いよりもずっとタチの悪いことをしていたのだろう。ただそれも予想でしかない。恐らくオレが真実を知ることはないだろう。
「……まだ何か怖いの?」
「そうだな。……何かは分からないけど、すごい怖いんだ。……もしも、もしもルーシュが道を踏み外したとしたら……オレにはどうして欲しい?」
「私が? そうだなぁ……今の私が嫌いなタイプの人になっちゃったら、そのときはミラが私を殺してよ。でも後を追っちゃダメだよ? ミラは私よりも長生きする約束だもん」
「そっか……。じゃあルーシュが道を外さないように頑張ろうかな」
「……うん! そうして!」
心配する必要はない。心配することなど何もない。オレは分かっているのにオレの身体は分かっちゃいない。
そう簡単に克服できるものでもないのだろう。そのことをルーシュも分かってくれている。だからできる限りオレに寄り添ってくれる。




