第69話 懐かしい気配(2)
男は最高傑作だった。生まれたときは、それ以降の者達の誕生時よりもずっと弱小であったが、ものの数年で最強と呼ばれる存在になった。
なぜそれほど強くなったのか、それは彼が特別だったからだ。ならばなぜ、彼だけが特別だったのか。それは彼の誕生が他の者のそれとは大きく異なっていたからだ。
——ベータ、聞こえますか?
——!?アンタから連絡が来るたぁ珍しいこともあったもんだ。どうかしやしたか?
——No.6が殺されました。対処は私の方でしておきましたが……
——死体は?
——残ってませんね。
——それじゃあ弔いもできやしねぇな。勝てねぇ相手なら逃げろといつも言ってるというのに……
——彼にも彼なりの道があったんでしょう。そう言ってやらんでください。ルシファーには私から伝えておきますから。
——王はまた悲しまれるな。……ところでNo.6を殺したというのは?
——グランデュースです。サンダーグラスもすぐ近くにいましたが、戦っていたのはまず間違いなくグランデュースの方でしょう。
——前は混沌竜に辛うじて勝てる程度だったと記憶してやすが……恐ろしい成長でござんすね。……アンタもしかして、『月鏡』を使いやしたか?
——そうですね。10秒ほど目を合わせてたので……100回ほど繰り返してるんじゃないですかね? なかなか精神の強い少年でしたよ。
——そりゃあまた……同情しやすよ。最大級の恐怖と苦痛を幻を介して繰り返し体験する術……廃人になっちまうんじゃ死ぬよりはマシでしょうが……。王の準備にまた時間がかかっちまうんじゃねぇですかい?
——まぁなんとかなるでしょう。ガンマとデルタ、それとエプシロンは元気にしてますか?
——ええ。何か伝えておきやしょうか?
——予感でしかありませんが、近いうちに動く必要がありそうです。備えておけというのも変な話ではありますが、まぁいつでも動けるようにしておいてくださいと。
——了解しやした。それにしてもアンタ、何やら楽しそうでござんすな。何かあったんで?
——いやぁ……何か懐かしいものに触れた気がしましてね。
***
「ッハァ!……ハァ……ハァ……。……?」
目を覚ますと、オレは宿のベッドに横たわっていた。服が汗のせいで酷く濡れており、呼吸も異常なほどに荒れていた。なぜこれほど取り乱しているのか……。
「起きたか。だいぶうなされていたようだけど、どこか痛むのか?」
「ッ! ハァ……ハァ……。いや……どこも大して痛まねぇ。……何時間寝てた?」
「30分程度かな。そんなに眠っちゃいなかったよ」
「30分……そんな程度だったのか……」
「俺は部屋の外にいよう。君も自分で状況を確認したいだろう。何かあれば扉の外にいるから呼んでくれ。それと寒かったら上着でも羽織っておくといい」
「? ああ、ありがとう」
ジンリューは分厚めの上着を残して部屋の外に出ていった。最初はよく分からなかったが、改めて自分の腕を見てみると小刻みに震えていた。
なぜかは分からないが、何かが心臓に絡まっているような気分だった。
何に震えているのだろう。何かに恐怖でもしているのか……? 恐怖はしているのかもしれないが、それだけでもなさそうだ。単純なものではない。
しかし心当たりが一切ない。なんだ? 何をされた?
「セリア、何か分かるか? オレが寝ている間に何があった?」
オレが話しかけると、セリアは幽体化を解除して隣に座った。オレには何も分からないが、セリアなら分かるかもしれない。オレに起こったことと、あの仮面の男について。
「具体的には分からないけど、何かしらの幻術にかけられてたみたい。こっちから解くことはできなかったから君が自力で解除したか何かしら解除される条件を達成したんだと思うけど……。何も覚えてない?」
「……分からない。記憶には何も残ってない……」
「だとしたら自立で解除したわけじゃないか。覚えてないなら得られる情報もなかなかないかな。どこか違和感はない?」
「違和感は……あるけど……」
オレの精神が何かおかしくなっているような気がする。さっきジンリューと目を合わせたときも、今セリアを見たときも、なぜか心の奥で酷く恐怖していた。
背中が冷たくなり、何かトラウマのようなものを感じた。しかしそれが何なのかが分からない。




