第06話 八星級戦力(2)
校長と顔を合わせるのは初めてではないけれど、校長室に来るのはこれが初めてだった。思ったよりも整然とした部屋だった。てっきり書類の山とかできているのではないかと。
「グランデュース=ミルアルトです」
「よく来たね。そこに掛けてくれ」
校長は優しい口調で言った。オレとセリアはソファに腰掛け、案内を終えた先生は部屋を後にし、副校長がテーブルに紅茶を2杯出してくれた。副校長は七星級中位という実力でありながら、普段は校長の秘書も務めているらしい。
聖都魔法学園の校長は十法帝の一人だと有名だが、彼が校長になったのは数年前のことだ。それまでは高齢の法帝が務めていたのだが、歳で退任してからその方が可愛がっていた彼が後任となったのだ。
ウチは中央政府が管轄しているということもあり、どの代でも政府の最高戦力である法帝が校長に任命されるらしい。
「さて、私はシュールラ=レイジと申します。十法帝の一人として知られていますが……ネフィル=セルセリア様からしましたら未熟者もいいところですかね。どうやら英雄と呼ばれるだけの力はお持ちのようだ」
「そんなに堅くしなくていいわよ。あなただって世界の最高峰の方なのでしょ? それに自然に話す方が楽しいわ」
「そういうことなら……少し緊張を解いて話させてもらいますか。しかし目上の人に口調を崩すのはむず痒いんでね。そこは容赦して貰いたい」
セリアと校長は互いに鋭い視線を向けていた。互いに何かを見定めているようで、しかし校長の方が少し気圧されているようでもある。ただどちらにせよオレの入る隙などなかった。もし入ろうものなら、間違いなくオレの身体は潰れてしまう。
「……どことなく魔力がイリアと似てるわね。シュールラって言うと彼女の家系でしょ?」
「確かにあなたと同じ時代に生きていたシュールラ=イリアという英雄は私の先祖ですが……そんなことも分かるのですか。昔は魔力の質を見ることができたと聞きますが、本当なんですね」
「へぇ。今はできないんだ」
「人の進化……と言うべきではないかもしれないですかね。今の時代にそんな話をしていたのは……九星の化け物くらいですよ」
魔力の質か……。いつの時代か、人が魔力の質よりも量を求めた時代があったらしく、その影響でそれ以降の時代を生きる人間は魔力の質を見る目を失ったのだとか。その分魔力の量や感知能力には優れているらしいが、真偽のほどは分かっていない。
「それで、話っていうのは? ミラを連れてきたのも、私と何か話すためでしょ?」
「………まず何から説明すればいいか……。そもそも“神話の時代”の者が召喚されにくい理由はご存知で?」
「神話の時代に限らず、時間が経てば魂は新しい魂に転生しちゃうから昔の魂は滅多に召喚されないって話でしょ? ミラに聞いたわ」
「その解釈で間違いないかと。だから神話の時代の魂なんて召喚されたら誰もがその知識を求めるのですが……その理由を説明しましょうか。少し長くなるんですけど……」
——そもそも“神話の時代”というのがどの時代を指すのかを話しましょう。
よく使われるのはあなたや“始祖の英雄”アリウス、“終焉の大魔王”ネフィル=エスト、“大要塞”バンリュー、それから先代竜帝が活躍していた、魔族や魔神と人間が争っていた時代ですが、実際には約6,000年以上前、現竜帝が生まれるよりさらに昔の時代を“神話の時代”と言います。つまりあなた方の活躍から4,000年間はありますかね。
そしてここからが重要なんですが、その時代が“神話の時代”……つまり神話とされている理由はですね、単純にその時代の記録がほとんどないからなんですよ。世界中の種族が巻き込まれるそれは酷く大きな戦争がありまして、そのせいでそれ以前の記録が失われてしまったんです。
そんな中であなた達の活躍など、今でも語られているものは記録がなくとも語り継ぐことができた内容というわけです。




