第67話 悪く思うな(3)
オレは目を瞑って剣が振り下ろされるのを待つしかなかった。しかし待っても剣がオレの首を落とすことはなく、何かと衝突する音が響いた。
「……?」
「ミルアルト、我々は生徒会だ。いつ何時も余裕のある立ち振る舞いをせねばな!」
「ふっ……あんた……にゃあ……敵わねぇな……」
ジンリューが魔物の剣を受け止めていた。そしてそのことに怒ったのか、魔物は力の限りに剣を振ったが、ジンリューはそれを軽々と躱し、手から無数の泡を出した。
その泡が魔物を包囲し、それが魔物に向かって集まった。魔物は泡によって身体を失い、瞬く間に消滅した。
「悪かったね。魔物の群れとセンパイが戦ってたから遅れてしまったよ」
「……なん……」
「ああ、無理に喋らなくていいよ。ほら、これを飲みなさい」
ジンリューはオレに回復薬を渡してくれた。上級回復薬だろうか? オレはそれを一瓶飲み干すと、傷は多少治ったがまだ身体を動かすほど回復しきることはできなかった。
「嫌な予感がしたんで様子を見にきたんだ。生きているようで良かったよ」
「……嫌な予感?」
「ああ。……尋ねるが君、一体何と遭遇した?」
「“何”? ……戦ってたのはあんたがさっき倒してくれた魔物と融合したヤツだが……」
ジンリューは何やら動揺しているようだったが……No.6はそう警戒するほどだっただろうか? いや、警戒すべき強さではあったが、一応オレでも対処できる相手だった。
「君が勝てたというなら俺が言っているのはソイツじゃない。今日か昨日か一昨日か……何者かと接触しただろう? 君の未来が見えなくなってしまった。……いや、正確には見えるがどうも歪んで見えてしまう。恐らく世界の流れを変えられるほどの者と接触したのだと思うのだが……」
「…………心当たりがあるとすれば十法帝会議だけど……」
「それよりずっと最近のことだ。君が十法帝会議に行ったときは異変はなかった」
つまり、法帝達よりもずっと強い何者かと接触していたということか? セリアやベルドットさん、ユリハ様よりも強い何者かと……。
そんなヤツいたか? そんなヤツ……いるのか? いたとすればセリアが気づいていると思うんだが……
「……心当たりがないなら仕方ない。今のところは帰るとしよう。君の傷を癒さなければならないからね」
「悪いな。迷惑かけるよ」
オレはジンリューの肩を借りて上層へ続く道を歩いた。ジンリューはロイドの戦っていた魔物を始末したらしく、ロイドのことは外へ帰らせたらしい。
歴史の破壊者については知られるべきではない、とのことだ。帰還石を使えばすぐに帰ることはできるが、アレは魔力を込めた本人しか帰還できない上にかなり高価なものだ。徒歩で帰れるならばそれに越したことはない。
しばらく歩いているとカツカツと音が響いた。始めはオレ達の足音かと思っていたが、その音は次第に近づいてきたのですぐに違うと分かった。
が、魔力は大したものでもなかったために警戒はせずにそのまま歩いた。
それが間違いだった。こんな階層に大した魔力を持っていない者が入ってくるわけがなかったのだ。
「おっと……大丈夫ですか? なかなか酷い怪我をしているように見えますが……」
「あんたは……」
オレ達の前に現れたのは仮面の男だった。男とは昨日一度だけ会ったが、依然として黒いコートを着ている。仮面の中からは眼光がキラリと光っていた。
「心配はいりませんよ。応急処置はしていますから」
「そうですか。ところで私は人を探してるんですがね……」
人? 七階層にはそう人はいないと思うが……こんなところで人探しか? いるとすれば八階層以下だと思うが……
「No.6を殺したのは君かね? グランデュース=ミルアルト……」
「ッ!?」
「何者だ……あんた……!!」
「悪いが君に用はないんでね……邪魔はしないでもらおうか、サンダーグラス=ジンリュー」
敵意を見せた仮面の男にジンリューはすぐに反応して攻撃を仕掛けたが、敵はいとも容易くそれを回避して蹴り飛ばした。
動きが普通じゃなかった。あんなに速く動くものを、オレは未だかつて見たことがない。ジンリューでもどうすることもできないほど強く、恐らくセリアやベルドットさんよりもずっと……
この男だったか……。しかし……歴史の破壊者か? いや、そんな魔力は感じない。何者なんだ?
ジンリューの支えを失ったオレは立つことすらままならず、すぐに倒れ込みそうになった。そんなオレの首を仮面の男が掴み、仮面の中から瞳を覗かせていた。
なぜだかオレはそれに抵抗することすらできなかった。その気力すら湧かなかったのだ。
「王は君を邪魔だと言っていましたが……君の死を望んでいるわけではありません。とはいえ君を放置するわけにといきませんから……」
「なッ……なに……を……!?」
仮面の奥から見えた渦巻き状の魔眼に引き寄せられる感覚に陥った。何をされているのか、一切理解することができなかった。
次第にオレの意識は闇の中へと引き摺り込まれ、視覚も聴覚も嗅覚も、少しずつ消えていった。そうして気づけばオレは、鎖で壁に牢の中に拘束されていた。




