第60話 休日(2)
歴史の破壊者がいるとするなら決して安全とは言えない。No.8よりも強いヤツがいる可能性だってある。その場合逃げられるなら逃げた方がいいだろう。
とりあえず今はできることをやるしかない。オレは坐禅を組んで八雲を握った。戦っている最中に力を吸われてはたまったもんじゃないからな。今のうちに懐かせておくしかない。
気づくと窓から陽が差していた。普通に眠たかった上に思った以上に気力を吸われていたようだ。
身体は少し重くなっているが、満足したのか八雲はこれ以上オレの力を吸おうとはしなかった。時計を確認すると針は10を指していた。
ジンリュー達は迷宮に入っている時間だな。オレはシャワーを浴びて出発する準備をした。
「大丈夫かな? まぁなんとかなるか」
「危ないときは私が出るわよ」
「いざってときは頼むよ。………そういえばオレが急に寝たのにセリアは起こしてくれなかったのか?」
「死にはしなさそうだったし」
「なるほどね」
オレは八雲を腰に差し、宿を発った。ギルドまで歩いていき、食堂の扉の近くに座っているロイドの向かいに座った。同時にオレンジジュースとサンドイッチ、白米を注文した。
「悪いね。待たせたか?」
「悪いと思ってんなら呑気に朝飯を食おうとしてんじゃねぇよ」
「腹が減ってちゃ剣も振れねぇよ。何事も準備ってのが大事なんだ」
「んなことを言うならよ……いや、やっぱいいや。とりあえず話をするか。オレが案内できるのは八階層までだ。それまでに例の冒険者に会えなかったら悪いが諦めてくれ」
ロイドの説明をオレはジュースを飲みながら聞いていた。
ここの迷宮は十五階層まであるのだったか。そのなかで八階と聞くと微妙に聞こえるかもしれないが、実際は冒険者としては相当の実力者だ。十五階層まで進めるのはSランクの冒険者くらいのものだろう。
最深階層に入れば迷宮の主が現れる。その主というものが異常に厄介なのだ。ちなみに大抵の魔物は死ねば武器も魔素に還ってしまうけれど、主の場合は稀に戦利品として獲得できる。
呪いの装備は大半がそういったもののため、倒す価値は大いにある。せっかくだから会ってみたい気もするが……。
「魔物を全てオレが倒すっていうならどこまで案内できる?」
「……一応十二階層までなら見たことがあるが……あそこはA級の魔物も少なくない上に魔物も数も多い。案内をするのは十一階層が限界だ」
「そうかぁ……それなら八階層まででいいや。じゃあもう行こうか。オレの仲間に見つからないように行かねぇと。だから回り道するかもしれねぇな」
「見つかっちゃマズいのか?」
「何を言われるか分からないからな」
「面でも着ければいいだろ。コートでも羽織っていればバレやしねぇだろうに」
「目立つだろ、それ」
ロイドの提案は却下し、オレ達はそのまま迷宮に向かった。迷宮に入ってからは魔力感知を全開にしながら、セリアの感知能力も頼りにしながら進んだ。
一階層は最短のルートで進み、二階層に進んだ。そこで魔物を狩っているカミュールを避けるように回り道をし、そのまま三階層に進んだ。
そこからは順調に進んでいき、五階層に入ってから雰囲気がガラリと変わった。
「迷宮の深層ってのはどこもこんなものなのか?」
「全部がこうとは言えねぇな。まぁ珍しいものでもない」
五階層は四階層までとは一気に変わり、大木が生え、まるで森の中の古びた遺跡のようだった。大量の魔素に晒されたせいなのか、新しく自然を形成しているのだ。
光を発する特殊な植物も生えているおかげで階層全体が浅層よりもずっと明るかった。不思議な熱も発しているため、ここよりも深い階層なら灼熱の階層や極寒の階層などというものもあるのかもしれない。
それなら深層は魔物に加えて環境も厄介ということになるな。
(…………いるわね、歴史の破壊者が)
(ホントか? オレは感じないけど)
(たぶん……七階層じゃないかな? No.8ほど大きな魔力ではなさそうだけど……)
(そっか。そりゃ運が良かったな)
オレはロイドに七階層に目標がいることを伝え、そのまま階を二つ降りた。五階層から七階層の雰囲気はそう違わなかったが、少しずつ気温……室温? が下がっているようだった。
七階層ともなると木の葉は凍っているものもあり、霜の降りた地面はシャリシャリと音を鳴らした。……地面に土が張っているのは朽ちた樹木のせいだろうか?
七階層に茂っている葉を払いながら進むと、オレでもその魔力を感知することができた。確かにNo.8ほどではないが、ヤツと変わらず嫌な感じの魔力だった。




