第59話 休日(1)
オレは自分の部屋を出て、隣のジンリューの部屋に来た。ドアノブに手をかけて扉を開き、部屋の中を見渡した。彼の姿はぱっと見確認できないが……
「ミルアルトでーす。ジンリューいるか?」
「そういうのはノックをしてから尋ねてくれるかな? 知らないのかもしれないが、一応プライベートの空間なんだよ」
「そっか! 知らなかった!」
「騙す気もない嘘をつくような後輩ほど面倒なものはないな。何の用だ?」
死角から現れたジンリューは、迷惑そうにしながらもオレの話を聞こうとしてくれた。相変わらず後輩に優しいというか……元々想定でもしていたのだろうか。
「明日のことについて少し」
「なるほど、そう来たか。茶は出せないがまぁ座れ」
ジンリューに促され、オレは部屋に上がった。オレの部屋よりも良い雰囲気だ。まぁ部屋の良し悪しはそこまで気にする必要もないか。
「明日は休みにでもするのか?」
「ああ。生徒会の特権だもんな。自由に休めるのは。“学外授業”外なら何階層に入ろうとも問題ないもんな」
「……一応理由を聞いても? 君は約束を雑に扱うような男じゃないだろ?」
歴史の破壊者についてはまだ機密情報だったよな。ジンリューがそれについて知っているとはいえ、オレがそれを話すわけにはいかないか。
「詳しくは話せねぇけど、三階層以下で怪しい動きがあったようだから。片付けておきたい」
「歴史の破壊者か? それなら俺も簡単には首を突っ込めないが……校長に連絡はしておこうか?」
「いや、まだ全然確定してるわけじゃないんだ。読み通りなら帰ってから交流しておくよ」
「ははっ。勝つのは前提か。それでこそ君だ。……で、正直俺が一番気になってるのはその物騒なものなんだが」
そう言ってジンリューは八雲を指差した。やっぱり見て分かるのか。そりゃあまぁ見た目も魔力も禍々しいものだからな。
「武器屋で買ったんだ。“八雲”っつーんだが……」
「なるほど、妖刀ね。そこらの呪いの装備よりタチが悪いが、その質は比べるまでもなさそうだな。最大値だけを考慮するなら名槍“バイデント”と比べても遜色ないんじゃないか?」
「ベルドットさんの槍か。アレを使ってるところ……っていうかあの人が戦ってるのを見たことないからどうだかな」
名槍“バイデント”は世界で最も有名な武器だ。人類最強と呼ばれるベルドットさんが使っているということもあるのだが、そもそも“名”と名につく武器が現状三つしか存在しないらしい。
名槍“バイデント”、名剣“オーディラン”、名刀“鬼火舞”。オレは詳しくは知らないが、それら三つの武器は成り立ちが何やら特殊らしい。
「ま、とりあえず話はそれくらいだ。明日は体調を崩したってことにでもしといてくれ」
「そんな理由じゃ誰も納得しないだろ。そうだなぁ……“兎饅頭にハマって食べ歩きしてる”ってことにしておいてあげよう」
「……まぁそれでもいいけど。そういえば、今回オレが死ぬ未来は見えるか?」
「前にも言ったが俺が見た未来では君はしばらくは死ぬことはない。ただ……遠い未来であればある程度正確なものではあるけど、君の死が世界にとって些細なものならばそれも確実とは言えない。油断はするな」
そうか、そういえばジンリューの予言はあくまで世界の運命を見るもの。死ぬ可能性は少なくとも、オレが世界に及ぼす影響が分からない以上“オレが生きている未来”を見たとしても確実性には欠けている。
ジンリューとの話を終え、オレは自分の部屋に戻った。




