第58話 妖刀“八雲”(3)
どうしようかと少し考えていると、店主のじいさんが話しかけてきた。
「お客さん、オメェ剣技系の能力保持者か?」
「ん? まぁ、そうっスよ。自分グランデュースなもんで、ご存知っスかね?」
「剣の一族か。その名を知らない者は少なかろうが、武器を扱う者の間では特に有名だ」
「そういうもんなのか」
じいさんは“少し待ってろ”と言うと、店の奥へと消えていった。オレは言葉の通り待つことにしたが、どうにも暇なんで適当に武器を眺めていた。
「おい、この槍とか800万もするぞ? 本当に買ってくれるのか?」
「お前が欲しいならな。迷宮で儲けてはいるから気にするな」
ロイドは案外高位の冒険者なのか? 確かに五階層に出た魔物の群れ一人で対処可能なのだとしたらAランクだったりするのだろうか? Bランク以下だったらそう簡単に800万を出せるとは思えないが……
「ほら、お客さん。コイツらはウチの最高級のもんだ。オメェに合ったもんがあれば買ってくれ」
そう言って戻ってきたじいさんが抱えていたのは、二振りの刀と四振りの剣だった。どれも最高の業物であることは確かに見て分かった。これはそうそう売ってあるものじゃない。
「刀の実物は初めて見た。コイツらは言わずもがなだが、店にあるのはどれも物が良い。どこからこんなに仕入れているんだ?」
「二年前ぐらいか? ロウドンが戦争を始めただろ。その影響で武器の製造が進んでんのよ。まぁ本当に質の良い奴ァ戦争以前のもんだがな。そんなことはいいからさっさと見ろ」
店主に急かされたのでオレは剣と刀を一振りずつ確認した。どれも重量感、撓り、刃の鋭さ、全てにおいて完璧と言っていい。ただその中でも、一振りだけ異様な雰囲気を発していた。
「……これは?」
「ほう……手に馴染むか? ソイツは妖刀“八雲《やくも”、血を吸って成長する刀だ。半端な持ち主じゃソイツも血と精気を吸われちまうが、どうする?」
オレは刀を鞘から抜いて刃を見た。白い刃から溢れ出すドス黒い雰囲気……随分と荒い刀だな。こういう腐った気性のヤツは気に入らないが、コイツには何か惹かれるものがある。
「これを貰うよ。いくらだ?」
「そうだなぁ……200万だ」
「200万ね……?安くないか?いや、安くはないんだがよ……」
「妖刀なんざ持てる奴が持ってねぇと意味がねぇからな。その代わりに贔屓に頼むよ」
これが200万なら格安だな。1000万でこれより粗悪な刀剣を売られることもあるだろう。
「よし、武器に困ったらここを訪ねることにしよう。ロイド、会計を頼む」
「妖刀なんざ買って……後悔するなよ?」
「刀に殺されるほどオレは柔じゃねぇさ。仮に後悔するようなことがあればオレが刀に負けたときってことだろ? それはそれで面白いしな」
「面白いって……まぁいいがよ」
オレは八雲を受け取って店を後にした。持っているだけで悪寒がするが、とりあえずは従っていてくれるようだ。明日迷宮に行ったら試し斬りをしてみよう。
「いやぁ、本当に頭が上がらないよ。ありがとな」
「頭下げるつもりもねぇくせによく言うぜ。まぁお前に対してはこれでチャラってことにしてもらうぞ?」
「もちろんだ。明日またギルドで会おう」
オレはロイドと別れ、取っている宿の方へと向かった。八雲は持っていると魔力を吸ってしまうので、帯刀しておくことにした。
それでも少しずつ魔力は食われてしまうけれど、回復の方が早いから気にする必要はなさそうだな。
考えながら歩いていると、通行人とぶつかってしまった。気づかないうちに人の多いところまで戻ってきていたようだ。
「わっ……すみません」
「いや、こちらこそ申し訳ない。……若く見えますが、冒険者で?」
「ええ、この街には今日来たばかりですが」
「というと迷宮の方に?」
「浅い階層にしか入ってませんがね」
「眩しいものですね。頑張ってください」
そう言ってぶつかった男はどこかへ行ってしまった。変な仮面をしていた上にフードを被ったコート姿だったせいで容姿はほとんど分からなかったが、180を超える身長と声から男だろうということだけは分かった。
魔力はほんの少ししか感じられなかったが、それはもはや気味が悪いほどに精密な操作をされていた。実際の魔力は恐らく感じられたものよりもずっと多いだろう。
……冒険者ではあると思うが……何者だ? ロイドの会った者とは恐らく違うだろう。そうだったとしても、仮に歴史の破壊者だったらセリアが魔力から気づくはずだからとりあえずは警戒する必要もない。
考えても答えの出ないことは置いといて、オレは宿に戻った。自分の部屋の荷物を整理し、寝る準備をしてから隣の部屋に向かった。




