第56話 妖刀“八雲”(1)
“魔物を仕向けたのはお前か?”、その問いにロイドは短く肯定した。
迷宮では魔物に敗北して殺されるなんてことはざらにある。魔物の群れであれば尚のことだ。小回りの効く魔物も多く、オレ達でなければ帰還石も使う隙もなく殺されていたかもしれない。
しかしあのとき、他のヤツらは気づいていなかったかもしれないがロイドの魔力はすぐ近くで待機していた。オレ達を襲撃させるためなら、わざわざ自分が襲われる危険を冒してまで様子を確認することはないだろう。
つまりロイドはあの魔物の群れに勝つ自信があり、その上でオレ達の戦いを窺っていたのだ。
「……いつから気づいていた? 俺は魔力を抑えていた。あらかじめ気を配っていなければ、戦闘中に気づけるわけがない」
「まず一つ、初めて会話したときにアンタが携帯してたポーション、アレは魔物の感覚を狂わせるものだろ? 普通の冒険者が持ってるようなもんじゃねぇ。恐らく狂った魔物を調教系の能力で操ったってとこだろ」
「そしてもう一つ、アンタが話した昔話は嘘だったからだ。迷宮で死人が出るなんてことは日常茶飯事、それしきのことで迷宮が封鎖されるなんてことはあり得ねぇだろ。せいぜい下級冒険者が制限されるくらいだ。おおよそオレ達がアンタらの狩場に侵入しないようにか、あるいはそもそも迷宮に入らせないようにビビらせようと思ったんだろ」
「そこまで見抜かれてたんじゃ俺にはどうしようもないな。若いくせして頭の回る子供だ」
「褒めてもなんも出さねぇぞ」
そうは言ってもこれ全部気づいたのはセリアなんだけどな。オレだけだったら“アイツ怪しいな”程度で終わっていただろう。まず間違いなく魔物の群れは魔物の暴走と認識していた。
「間違ってるなんてこたァ分かってんだ。オレが子供の夢を潰したところで、必ずしも良い未来が訪れるなんてことはない。むしろ力を得る機会を奪えば大きな力に抗うこともできなくなると。だがなぁ……子供は死ぬんだよ。危険から遠ざけてやんねぇとよ……」
「言っちゃなんだが、放っておけばいいだろ? 他人なんだ。アンタも若いくせに、なんで拘っている?」
「……俺には歳の離れた弟と妹がいたんだが……俺がまだ子供だったころ、戦争で親を失ったんだ。もちろん金なんかなかったわけだが、俺には才能があったんだよ。魔物と戦っても勝てたから、迷宮……そこは天然型迷宮だったが、よくそこで狩りをして金を稼いでた」
「それをチビどもは……俺ばっかりには悪いからって俺の目を盗んでその迷宮に行きやがった。その街は法も緩く警備も薄かったんだ。あとは……まぁ分かるだろ」
なるほど……。迷宮で弟妹を失ったということか。心の支えだった者を失うというのは、理解し難い苦痛だったことだろう。
「その街に残るのは辛かったから適当に選んで移住したのがこの街、イスダンだ。当たり前だが、子供は迷宮に近づかない方が生きていける可能性が高い。トラウマでも植え付けて近寄らねぇようにした方がその瞬間は生きていられるんだ」
「他人だとしても、子供が迷宮に入ること自体が恐ろしいんだ……!……人のためなんて綺麗事は言えねぇ。ミスをしてたら俺のせいで死人が出てたかもしれねぇんだ。俺を殺すでも、ギルドに突き出すでも好きにしてくれ。弁明はしねぇよ」
オレはケーキを食べながら話を聞いていた。せっかくのケーキの甘さが邪魔になるような内容だな。
「アンタのやり方は褒められたもんじゃねぇが、オレはそれを裁けるほどいい子ちゃんでもねぇんだ。死人が出てない以上、オレはそこに首を突っ込むつもりはない」
「だがこうなると……今更ではあるだろうが俺としても何かしらの償いというものもしなければ……」
「……オレは昔な、家を燃やしちまったことがあるんだ。能力の発現を初めて確認したときだから……3歳か4歳くらいのときだったかな。あの日のことはよく覚えてるよ」
「能力が暴発しちまったんだろうが、オレの家も隣のじいさんの家も、じいさんの家に住んでた戦争孤児の幼馴染も、全部……なにもかも燃やしちまったんだ」
「……」
「オレも肺の中から焼かれてる感覚がして、今にも死にそうだと思ったんだ。両親もじいさんも、幼馴染も巻き込んで……街の人達は一生懸命に消火してくれてたんだけど、間に合わない、もう死んじゃうなって」
「……そしたらさ、誰かは分からないけど、誰かが助けてくれたんだ。もう大丈夫だって言われて……そのまま気を失って、気づけば全部元通りだったんだ。みんな火事のことは覚えてたんだけど、時間でも巻き戻ったみたいに建物やみんなの怪我は治ってた」
「オレはその人に憧れて、感謝を伝えたいんだ。でもどうすればこの声が届くのか分からないから、強くなって有名になろうって決めたんだ。もちろんそれだけが強くなりたい理由じゃないけど、それがオレがここまで強くなれた理由の一つなんだ」
「なるほど……お前が俺に言いたいことはつまり……」
「誰かのヒーローにでもなってあげなよってこと。子供はヒーローに憧れるもんだ。それを糧に大成するヤツもいるだろ」
自分の過去を語るなんて珍しいことをしたもんだ。別に思い出したい記憶というわけでもないのに、たぶんロイドに希望を与えたかったんだな。




