第55話 甘味は正義(3)
別に急ぐ必要はないのだけれど、わざわざゆっくりしている必要もない。ギルドで魔石を換金した後、予約していた宿に帰った。
これからは自由行動のためみんなは近くの店や武器屋に向かったようだが、オレは一人で街の外れまでやってきた。活気に満ちていた迷宮周辺とは違い、ここはどこか寂れた雰囲気だった。
野良猫が歩き回り、一際目立った大きな建物からは、子供達の声が聞こえた。孤児院のようだ。裕福ではないようだが、一部の冒険者の支えのおかげでお金に困っているわけでもないらしい。
その近くにオレの探していた人物は現れ、すぐに近づいて逃げられないようにその腕を掴んだ。
「おっと、いつかのセンパイじゃないか。良かった。ちょうどアンタを探してたんだよ」
「なッ……!!お前は!!」
ロイドという飲んだくれの青年だ。といっても今は酒の匂いも弱いし、瓢箪を持っているわけでもなさそうだ。どうやらいつでも酒を飲んでいるというわけでもないらしい。
「どうだ、近くのカフェでお茶でもしないか? オレはアンタに聞きたいことがあるが、アンタもオレに話すべきことがあるだろ?」
「……分かった。近くに人気の少ない喫茶店がある。……テラス席なら話をしていても店員にも聞かれないはずだ」
「じゃあ案内頼むよ」
オレはロイドの後ろについていった。街はさらに静かになり、そんな住宅街にある一つの看板が目に入った。
掃除をしていないのか、蔦の生えた看板に、店の扉は錆びついていた。窓は霞んでいるせいで中は見えないが、それゆえに話が人に聞かれるという可能性も考えずに済んだ。
扉は軋む音とともに開き、内装は外観からは想像がつかないほど整っており、清潔だった。
そして店主と思しき人物は若い女性の人間……いや、エルフか? エルフにしては耳の形が人間寄りではあるが、ハーフエルフというものだろうか。
「あら、いらっしゃい。ロイド君と……見ない顔ね?」
「観光客みたいなもんなんで……。コーヒーを一つと紅茶を一つ、ショートケーキも一つお願いします。……ところでなんでこんな外観にしてるんですか?」
「先生がこういう雰囲気の店をやっていてね。テラス席に持っていけばいいかな?」
「いや、彼とは話があるから先に受け取る」
「そうか。それなら少し待ってておくれ」
少し待ち、店主の淹れてくれた飲み物とケーキを受け取ってロイドと共にテラス席へと向かった。コーヒーはロイドに渡して紅茶を一口飲んでからケーキを一口食べた。どっちも良い味だ。
「……話をするんじゃなかったのか?」
「甘味は正義だぞ。カフェに来てケーキを食べないなんてバカだろ」
「カフェってのはコーヒー店だぞ」
「何が悲しくて苦いもんを飲まなきゃいけないんだよ」
コーヒーの苦さは気に入らないが、紅茶の適度な苦さはケーキによく合う。コーヒーはダメだ。コーヒーは砂糖とミルクを入れてやっと飲み物になる。
「まぁ食べながら話を順に聞こうか。魔物の群れをオレ達にぶつけたのは、アンタだな?」
オレは単刀直入に尋ねた。ロイドはどう答えようか迷っていたのか、少しの沈黙が続いた。しかし隠し通すことができないと理解していたのだろう。言い訳もせずに彼はただ一言、“ああ”と答えた。




