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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第四章 イスダン迷宮
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第54話 甘味は正義(2)

 オレは剣を抜いて壁を見た。少し魔力を放出するだけで周辺の弱い魔物は姿を消した。


 これでも気配がなくならないということは、間違いなくこの層を徘徊しているボス、D級のミノタウロスだろう。


 両手で剣の柄を握り、セリアの魔力を借りて思いっきり振りかぶった。


「ボス!?っていうか穴でも開けんの!?」


「耳でも塞いどけ……『嵐闘ラントウ』!!」


「マジでやんのかよ!!」


 オレが剣を振って壁を削り斬ると、迷宮ダンジョン全体が振動した。そしてその先には本道と思われる大きな道があった。近くにいる大きな影がミノタウロスだろう。


「アレ、誰がやる? 私がやってもいいけど……」


「リアン君にやらせてあげたら?」


「なんで僕!?ミルアルト君! なんでついでに倒しておいてくれなかったんだよ!」


「アレはD級だぞ? お前が苦戦するような相手でもねぇだろ。ま、お前ができねぇってんなら俺が片付けてやっても構わねぇが」


「!?……僕だってできるよ! 見とけよ!」


 どこから不安が湧いてきてどこから自信が湧いているのか……。理解はし難いけれど、リアンがやる気を出したので問題ないだろう。


 彼は固有の“加速”魔法で風魔法を異常な速度で飛ばし、ミノタウロスの首を斬り裂いた。数十メートルは離れているというのに、瞬きをする間もなく魔法は届いていた。


 音よりも速く飛んだ風の斬撃……アレはオレでも避けられる自信がない。


「なんだお前、遠距離攻撃もできたのか」


「僕の能力スキルは魔法系だから重ねがけできるんだ。消耗が凄いからあんまり使いたくないけど」


「ならミノタウロスなんかに使うなよ。“加速”して首を直接斬ればよかったじゃんか」


「万が一にも反撃されたら僕死んじゃうよ! そんな危険を冒すわけがないじゃないか!!」


「いや、死なないでしょ」


 今までリアンは身体強化の要領で自身を“加速”の能力スキルで速度の底上げをし、風魔法で作った不可視の剣で戦っていた。


 剣術自体はオレやカミュールと比べれば粗末なものだったが、その圧倒的な速度で翻弄する様は見事なものだった。加えて遠隔かつ高速の攻撃まで使えるとなると……真面目にやればオレよりも強ぇんじゃねぇのか?


「まぁとりあえず二階層に進むか」


「しかしアレだなぁ! 約束だから仕方ねぇとはいえ、全然手応えがねぇな!」


「油断はしない方がいいぞ、ラルヴァ君。そういう人達から殺されていくのだから」


 二階層に降りると、そこは一階層とは異なった雰囲気だった。一階層は完全に人工の建造物のようだったが、ここは天然の洞窟のようだった。


 元からこのようなものだったのか、それとも迷宮ダンジョン化した結果のものなのかは分からないが、とにかく一階層とは見た目も空気感も全く異なっていた。


「なんか……なんかあるか?」


「そうだな。君達、気を張れ。君達が欲しがっていた“デカいの”が来るぞ」


「何!?デカいのって何!?僕何も欲しがってないんだけど!!」


 ジンリューの一言で、全員が前を向いた。リアンを除いて全員が飢えた獣のような鋭い眼光で洞窟の奥を覗いた。三階層以下に行くことは許されていないが、そこに匹敵する魔物が自ら来てくれたのだとしたら、それと戦うことは禁止されていない。


 少し待つと、ブラッドボアと吸血コウモリの大群が押し寄せてきた。あれらは全てD級の上位、総合的な厄介さでいえばB級にも劣らないだろう。


 空中を舞うコウモリはヴァンルージとラルヴァ、リアンが引き受け、猪の方をオレとカミュールで狩っていった。後退と前進を繰り返し、少しずつ魔物の数を減らしていった。


 ヴァンルージは銃で的確に脳天を撃ち抜いており、手が空いた瞬間に猪の方の討伐も手伝ってくれていた。


 10分ほどだろうか。少しすると魔物の群れは全滅していた。


 アレらは最低でも四階層でないと出ないはずだ。魔素が薄く環境も異なる二階層にわざわざ出てくるなんてことはそうそうない。


 あるとすればアレらが恐怖するような何かが現れたか、あるいは何者かが誘導したか、だ。だが気にすべき点はそこではない……。


「……今日は引き上げよう。これだけ狩れば金もそこそこできる」


「早くないか? せっかく二階層に入ったばかりだというのに」


「僕は賛成だな!!」


「君がそう言うのならボクも従うけど……何か理由が?」


「……いや、少し嫌な予感がするというだけだ。外で確認したいこともあるしな」


 そうしてオレ達は迷宮ダンジョンを出た。ラルヴァはもう少しいたかったようだが、なんとか説得することができた。

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