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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第四章 イスダン迷宮
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第53話 甘味は正義(1)

 迷宮ダンジョンに一歩足を踏み入れると、たったその一瞬で空気が変わったことに気がついた。


 迷宮ダンジョンはどこまでも無機質な見た目でありながら、どこからか生き物の腐った匂いがしている。そりゃ掃除屋がいなかったらこうもなるか。


 辛うじて壁の隅に生えている苔が空気を浄化しているようだが、それでもどんよりとした空気であることには違いない。


 それでも何か……ロマンとでも言うべきか、この空間には人を惹きつけるものがあった。


「魔物と遭遇する前に言っておくが、俺は今回基本的には手を貸さないからね。命の危機になれば助けるが、それ以外は君達で対処してくれ。そして全員ある程度固まって動くように」


「本当に……ホントに! 命の危機には助けてくださいね!」


「あ、オレもあんまり積極的には手を出さないから」


「君は手を出せよ!!ポッケにでも入れておくつもりか!?転んじゃうからな!!」


「いやいや、そうじゃなくて。オレはちょっと魔物に対して強すぎるから。オレだって好きで来てるわけだからある程度やりたいけどさ、オレが出ちゃうと一階層や二階層にいるような魔物は殲滅しちゃうから」


 混沌カオスゾンビ混沌竜カオスドラゴンは肉体を持っていたから戦いになっていたけれど、普通の魔物はただの魔素の塊だ。


 オレの魔力にほんの少しでも触れてしまえばたちまちその身体を失ってしまうから、みんなの狩りのためにもオレはそんなに出るべきじゃない。


「そうか! そりゃ優しい配慮だな! でも僕はそんな配慮要らないと思うな!!」


「さて、まず陣形を決めるか。前衛はカミュールとリアン、後衛がラルヴァとヴァンルージかな。一番後ろがヴァンルージだ」


「……そんなの決める必要あるか? 片っ端から片していけばいいじゃねぇか」


「決めといた方がいいだろ。まぁ強い魔物が出ない以上みんなの好きにしてくれてもいいんだけど」


「じゃあ僕! 僕が後衛やります!!」


「お前は前で戦いたくないだけだろ。お前が後ろに行って何ができるんだ」


 泣き言を言うリアンをなんとか説得し、いよいよ迷宮ダンジョンの奥へと進んでいった。


 この迷宮ダンジョンは迷層型だ。通路が入り組んでいて下層に進むための本道に合流しなければ狭く進みづらい。大量の魔物に遭遇したら押し潰される可能性もあるが、少量の魔物と戦うためには利用できる。


 そもそも迷宮ダンジョンが作られた当初はこのような小道はなかった。迷宮ダンジョンがもはや生物、つまり巨大な魔物のような存在になったために、構造は常に変化し動いている。


 困ったときは壁を壊して突き進めばいいし、壊れたとしても数時間もすればすぐに直る。


 問題は床、及び天井はよほどの力でなければ破壊することはできないことだ。本道を見つけない限りは二階層に進むことはできない。


 もしも迷宮ダンジョンで遭難しようものなら待っているのは死だろうが、浅層はそこまで広くないし、壁も薄いから死ぬようなことにはならない。魔物もそう強いものはいないため殺されることもない。


 しかしなんだろうな……この違和感は……。


「さっきから何を観察しているんだ?」


「うーん……。魔力の残滓っていうのかな? この壁にこびりついてるの。一階層の魔物のものとは違う気がするんだよなぁ……」


「? ……何を見て言っているのかは分からないが、魔物じゃないなら誰かの魔法なんじゃないか?」


 ジンリューは壁にくっついてる魔力を見られないのか? オレはセリアと特訓してたからその辺の感知能力も鍛えられたのかな。


 混沌人カオスゾンビやその辺りの魔力と似てはいるけど……どこか違うような魔力が迷宮ダンジョンの壁に残っていた。


 一階層で出るような魔物であれば、こんな不吉な感じはしない。魔法の跡だとしてもそうだ。


 こんな階層でこんな魔力が残るような魔法を使うわけがない。


「まぁいいか。とりあえず本道を探そうか。ほんの少し感じる魔力の流れからするに……たぶんあっちの方だと思うけど」


 そう言ってオレは左前方を指差した。壁で見ることはできないけれど、確かに抜けた空間がある気がする。


 少し前までは確実にこんなこと分からなかったんだが……セリアの感覚が多少なりとも共有でもされているのか。


「えっ!?行くの!?今日二階層行くの!?」


「そりゃあな。まぁそれより先にボスがお出ましのようだが」


 そう言って、オレはずっと先、壁の向こう側に視線を向けた。

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