第52話 米が美味い(3)
カードが完成するまでは少し時間がかかるようで、オレ達は帰還石を買ってからギルドで昼食を食べながらこれからの動きを確認した。
「とりあえずカードを発行してもらったら迷宮に入ってみるか。……なんかこの米美味いな」
「釘を刺すが、入っていいのは二階層までだぞ」
「今日は一階層だけにしようよ! 僕には準備が必要だから。心の準備ってもんが!」
「そりゃ最初は一階層からでしょ。ボクは慣れれば今日中に二階層に入っちゃってもいいと思うけど」
「大した魔物も出ねぇんだしよ! どんどん進んじまってもいいんじゃねぇか?」
「“危なかったら引き返す”でいいんじゃないか? まぁ私はミルアルト君の決定に従うよ」
絶妙にみんな纏まらない意見だな。リアンは相変わらずビビっているし、ラルヴァも変わらず大胆な考えだ。そんな彼らにもヴァンルージは怯まずに意見を言っているし、カミュールだけが協調性を持っていそうだ。
……それにしてもこの米は美味いな。正直おかずがなくても椀三杯分は食べられる。普段からそんなに米は食わないのだが……イスダンは米の名産地だったか? そんな覚えはないが……。
そんなことを考えながら迷宮をどう進もうかなんてこともほんの少し考えていると、顔つきの悪い、酒臭い青年が話しかけてきた。
「ここの米は美味えか? ガキども……。オメェら迷宮に入るのかぁ……?」
青年は顔を赤らめながら瓢箪に入った酒を流し込んでいた。酔ってはいるようだが、理性はちゃんとしているようだった。
嫌な輩に絡まれてしまったか? ……にしても米が美味いな……。
「そうですが何か?」
簡単に答えると青年はあからさまに不機嫌そうな表情をし、酒を一口飲んでから話し始めた。
「迷宮ってのはよ……ガキどもの遊び場じゃねぇんだよ……! オメェらは家で飯事でもしてりゃいいんだ!」
「おいおい、言ってくれるじゃねぇか。迷宮は15歳以上なら誰でも入れるっつー決まりがあるだろうが。アンタはルールも知らねぇのか?」
「世の中はルールが全てじゃねぇだろうが。だからガキは嫌いなんだ。面白い話をしてやるよ。昔な、迷宮に入ったガキどもが低階層の魔物の群れに喰い殺されちまったんだ。そのせいでその迷宮は一時封鎖、俺達はその一瞬、稼ぎを失っちまったんだよ」
「許せねぇだろ? 世間知らずの雑魚どもに狩場を奪われるってのはよぉ……!!……だから優しい先輩である俺はオメェらに警告してやってんだ」
青年は酔っているせいなのか、それとも怒りのせいなのか、よく分からないが顔を真っ赤にしていた。そしてオレは米を食べながらその話を聞いていた。
「そりゃ確かに優しいセンパイですね。忠告感謝しますよ、ホント」
「分かったら来るんじゃねぇぞ。迷宮は法律が適用されづらい……。オメェらが偶然にも魔物の群れに遭遇しようと、誰が仕向けたかなんて分からねぇんだからな……」
「……」
そう言って青年はギルドの外に出ていった。……やっぱり酒の匂いがない方が飯は美味いな。
「ど、どーするよ! ミルアルト君! あの人絶対ヤバいって! 僕らが迷宮に入ったら殺されちまうよ!!」
「おい、リアンも食ってみろよ。この米ホントに美味いぞ?」
「君はさァ!!」
「俺は引率だが、選択は君達に任せることにしている。どうする? ミルアルト。彼の警告に従うのか?」
「……義理がねぇな」
「もぉ!!僕の話を聞いてるのか!?」
あの青年がオレ達に何を求めようとも、それに素直に従う必要はない。万が一にも迷宮でちょっかいをかけられたら相手をすればいいが、まぁ問題ないだろう。
「おっちゃん、さっきの酒臭い人、アレ誰?」
オレは近くに座っていた中年の冒険者に声をかけた。ベテランの冒険者ならああいう人のことも知っているだろう。
「ん? ああ、アイツはロイドってヤツだ。俺みてぇな歳食ったヤツには突っかからねぇんだが、小僧みてぇなヤツには悉く突っかかるんだ。そしてアイツに目をつけられたヤツはみんな冒険者をやめてくな。なんでも大量の魔物に襲われてトラウマになったとか。今のとこ死人も出てねぇし証拠もねぇから好き勝手にしてやがるが、まぁ気をつけるこった」
「ふぅーん」
「“ふぅーん”じゃないよ!!やっぱりヤバいって! やめとこうよ!」
まぁそんなにビビる必要はないと思うけどな。ただまぁ、それよりも気になることができちまった。
オレは飯を食べ終わり、ギルドのカウンターへと向かってみんなの分のギルドカードを受け取った。そしてありきたりではあるけれど、そこにいた受付嬢に声をかけた。
「お姉さん、ここのお米はどこに売ってるんですか? ぜひとも買っていきたい」
「あら、気に入ったかしら? 実はここのお米、孤児院が収穫してくれてるんですよ。ギルドで五キロくらいは売れますが……」
「そうですか! それなら明後日、高く買い取りますよ。それからついでに、兎饅頭はどこに売ってますかね?」
「それなら向かいの交差点を右に曲がって、200メートルくらい進んだ左手にお店がありますよ」
「助かります! ではまた来ますから、またよろしくお願いしますね!」
「はい。お気をつけて下さいね」
オレはカミュールとラルヴァ、リアンにそれぞれのカードを渡し、それから宿に向かった。そこで準備を整えてから迷宮に向かった。
迷宮は地表に出ている部分は神殿のようになっていた。
「ま……マジに行くのか? ロイドって奴がいるかもしれないのに……?」
「気ィ引き締めろ、リアン! 誰が一番魔物を狩れたか、競争するか?」
「しなくていいんじゃないか? どうせ私が勝つ」
「それなら競争するか? ボクも負けるつもりはないよ」
「もう一度確認するが君達、くれぐれも三階層には入るなよ」
みんなのやる気は満々だった。もちろん一人は全くであったが。オレも高鳴る気分を抑え、いよいよ迷宮の中へと足を踏み入れた。




