第44話 神話に建てられし聖なる要塞(1)
シュベッツとの試合を終えてオレ達は各々の寮に戻った。とはいっても闘技場からはそれなりの距離があるため、少し話しながら歩いていた。
「だからさ、学外学習はカミュールとヴァンルージはオレと一緒に迷宮にでも行こうよ。ついでにラルヴァとリアンも連れて五人でさ、それならそう危なくもないだろ?」
「君……懲りてないのか? 獄境で痛い目を見たんじゃないのか?」
「そんなことにビビってたら強くなれないからな。死ぬつもりはねぇけど、死ぬ覚悟はできてるよ。もっとも、流石に学園の行事で死ぬようなところには行けないだろうけど」
「……迷宮は死ぬんじゃないか?」
「イスダン迷宮の1〜2階層なら弱い魔物しか出ないだろうし、最悪すぐに逃げ出すから大丈夫だろ。もちろん最大限警戒はしておくけど」
迷宮というのは魔物が湧き出る場所のことだ。天然の魔素が充満していることで湧き地となっている“天然型迷宮”と、遥か昔に訓練場などとして使っていた施設が魔法などの多用によって魔素が溜まりやすくなり、その結果として湧き地となった“人為型迷宮”の二通りがある。
そしてオレが行こうと思っているイスダン迷宮は地下に作られた階層型の人為型迷宮だ。深い階層ほど大規模な魔法が使われたことが多く、それによって強い魔物も深い階層に湧きやすい。
2階層ならば基本はD級の魔物、強くてもC級の魔物しか出ないだろう。ヴァンルージは分からないけれど、それ以外の四人なら各々がC級の魔物なら簡単に倒せる実力はある。
ヴァンルージも生徒会に入っているということは相応の実力はあるはずだ。3層以下に入らなければ、怪我をすることもないだろう。
「まぁ君達が死ぬ未来は見えないが……分かったよ。最終的に許可を出すのは俺じゃないが、校長に進言くらいはしておくよ」
「私は一緒に行こうかな。迷宮というものに興味がある」
「ボクも行きたいな。君について行けばボクは強くなれる気がする。……でもAクラスのボクは一緒に行っていいのかな?」
「そこに制限はないはずだよ。それより気にしなきゃならないのは先生の説得じゃないのか? ランファ先生は生徒をそういうところに行かせないだろ」
「それは多分大丈夫だ。説得できる自信がある」
「……楽しそうだし私も行こうかなぁ!」
「ルーシュ、お前はダメだ。そもそもこの時期の学外学習は一年だけだろ。それに生徒会の仕事もあるからな」
「うぅ……」
目を輝かせながら言葉を発したルーシュに対し、ジンリューは冷静に言葉を返した。まぁでも……そりゃそうだろうな。一年の学習に三年が参加するなんて考えたらあり得ないことだ。
話に区切りがつき、みんな寮へと帰っていった。ジンリューやカミュール、ヴァンルージを見送り、オレも自分の部屋に戻ろうとした。
「ねぇミラ、少しお散歩しない?」
「散歩? まぁいいけど。」
そうしてオレはルーシュに連れられて学園の並木道を歩いた。外はすっかり暗くなり、昼には輝いていた緑色の木の葉は闇色に染まっていた。
しかしここから見える建物はそれに反して昼間よりも一層輝いており、街灯に照らされた道は存在感を際立たせていた。空気も澄んでいて、夏だとは思えないほどに涼しい。
散歩などほとんどしないから知らなかったけれど、案外気分の落ち着くものだな。
「夜だとルーシュのブレスレットは目立たないな。せっかくならもう少し良いやつでも買えばいいのに。なんなら買ってやろうか?」
「いや、これがいいの。古くてもいいんだ」
ルーシュが右腕に嵌めているブレスレット、これは昔彼女の誕生日にオレが送ったものだ。10年ほど前だっただろうか、当時持っていた小遣いを使って買ったものだ。
10,000Gもしない安物だった気がするが、そのときはまだキラキラしていて子供ながらに綺麗だなと思ったんだ。それが今では色褪せ、輝きを失ってしまっているけれど、ルーシュはそれがいいらしい。




