第32話 歴史の破壊者(1)
とある国の山を奥深くに進んだ場所にその店は立っていた。それは誰が見てもありきたりな雑貨屋だが、特定の魔力を持った者が扉を開けば、その先には限りなく広く暗い空間が広がっていた。
空間魔法を定着させた隠れ家というわけだ。男はその空間、架空空間に、二年ぶりに帰ってきた。
「おぉ! 久方ぶりのご帰還じゃないか! 部屋のメンテナンスでもしに来たのたか? No.8!」
「……B型の……あぁ……何番だっけか?」
「B06だよ。アンタらA型とは違って顔が近しいから分からねぇか」
「この空間は王の作られたものだ。俺の力でどうこうできるわけがないだろうよ。……それより番外はいるか? まだ王は帰られてないのだろう?」
「あぁ……ベータはいつもの部屋にいたはずだ。王もしばらく会ってないな。俺としては一刻も早くあのご尊顔を拝みたいのに」
「あの方にも準備があるんだ。近いうちにまた会える」
この空間には何百人と住んでいた。さらに出張っている者達も合わせれば、最大で二千人は超えることになる。そんな者達が何不自由なく過ごせるほどには快適な空間となっていた。
「ベータ! いるか!?」
No.8は大きな扉を叩き、中の男に声をかけた。男はただ“ええ”とだけ答え、彼はゆっくりと扉を開いた。
「あっしに何の用だ? アンタは普段、こっちには帰らんでしょう」
「王の耳に入れていただきたいことがあるんでな。俺が失敗作を2,500体ほど連れていっただろう? あれらが全て殺されてしまってな。申し訳ねぇ」
「……確か混沌竜もいやしたね?」
「……法帝どもが来ねぇか警戒してたんだが、想定外のヤツが来てやられちまったんだ」
「……まぁ所詮は失敗作。その程度の失態でアンタを殺すわけにはいかんでしょう。王もお許しになるはずだ」
No.8は額に汗を流しながらベータの言葉を聞いていた。気分次第で殺されてしまう、そのような緊張感がこの部屋には漂っていた。
「それと、獄境でグランデュース=ミルアルトとその守護者、ネフィル=セルセリアと遭遇した。失敗作を殺したのはミルアルトの方だ」
「……殺しちゃいねぇでしょうな?」
「最初は気づかず殺すところだったが、逃がしたんで生きてるはずだ」
「それなら構わねぇ。あの者達は準備が整うまで殺すなとの命令だ。それにミルアルトもセルセリアも、殺す役目は王のもんだ。あっしらが手を出していい相手じゃござんせん。だが王には伝えておきやしょう。それが番外の役目ですからね」
話を終えたNo.8は部屋を出た。そしてそのまま店を出て、空間転移でどこかに消えていった。
***
目を覚ますと、薄暗い天井と、すぐ隣にはセリアがいた。目を覚まして眩しいと思わなかったのは、これが初めてかもしれない。……そういえばここは獄境だったな。光が少ないのだから眩しくないのは当たり前か。
「うッ……はぁ……」
身体を起こそうかと思ったが、身体中に激痛が走って思う通りに動かせなかった。そしてそれと同時に、左腕に言葉にし難い違和感を覚えた。
「!!起きたのね! ……良かったぁ……。ユリハを読んでくるから、静かに待っててね!」
目を覚ましたオレに気づいたセリアが、安堵と興奮の入り混じった声でそう言った。ドタドタと部屋の外へ走っていくのを、オレは後ろからただ眺めた。声を出すのもなかなかにしんどい。喉や肺も損傷しているようだ。
「ミルアルト君、意識はしっかりありますか?」
「あ……はい……」
部屋に来たユリハ様の質問に、声をガラガラにしながらなんとか答えた。ユリハ様はその様子を見て、オレの喉に治癒魔法をかけてくれた。




