第30話 “8”(2)
酷い激痛が身体の内側と外側からオレを襲い、意識しなければ身体を動かすことも、呼吸をすることもできなくなった。水が流れるように口から血を吐き出し、身体の至るところから痛みが走った。
しかし魔力を解いてはいけない。今“叢雲剣”を解除すれば、魔力が全て飛んでいってしまう。この魔力を解き放つのは、トドメを刺すときだけだ……。
「『天舞』……!」
なんとか呼吸を整え、魔物の攻撃を剣でいなした。セリアの剣術のような、美しい舞をイメージした技だ。剣の腹を使って攻撃を受け、その衝撃を利用して移動する。
風に流される木の葉のように、するりするりと混沌竜の脚を登っていった。身体中に漂っている毒の霧をも斬り伏せ、やっとのことで首元までやってきた。
「『天翔暴風』!!」
身体を捻り、力の限り剣を振った。剣が周囲を巻き込んで身体を回転させればさせるほどに大きな力を生み出し、首を落とすには充分だった。
が、剣を首に振り下ろす最中、今まさに斬り落とせるという瞬間、急に右腕が剣から外れ、剣の発光が止まった。
「ッ……!!?」
考えてみれば当然か。“白天”は本来一発限りの技だ。魔力を発散しないように留めようとしていても、少しずつ魔力が漏れてしまえば維持することはできなくなる。
それに加えて先ほど吹き飛ばされたときに負った右腕の傷に、毒が入ってしまったらしい。右腕にはもう力が入らないし、魔力もほとんど消費している。利き腕でもない左腕の力だけで鉄のような首を斬らなければならない。
加えてどうするかを考える暇もなく、背後から巨大な尾が迫っている。回避すれば恐らく二度と首を斬る好機は来ない。だが回避しなければあの尾がオレを殺しにくる。それに腕力だけで首を斬れるとは思えない。
……くそッ! ダメだ……。考えたって無駄だ。オレはコイツを斬るんだから、諦めるわけにはいかないだろう。
「うぉおおおお!!」
魔力が抜け、遠心力のかかった剣が混沌竜の首に当たった。コツンという力の感じられない小さな音が鳴り、同時に腐った肉が焦げる不快な匂いがした。
それから一秒も経たずに大きく硬い尾の骨がオレの胴体に激突し、オレは洞窟の天井に打ち付けられてから落下した。十秒ほど呼吸をすることを忘れ、痛みに視界が潰された。
白く点滅する視界をなんとか整え、目元の血を拭って混沌竜の方に目をやった。
「ゼェ……ゼェ……。ガフッ……カッ……ハァ……ハァ……」
喉の奥で血か痰が絡まっているのか、呼吸をするたびにゴロゴロと音が鳴っている。剣を鞘にしまい、それを杖代わりにして身体を起こした。これ以上寝転がっていたら、すぐに気を失ってしまいそうだ。
「…………」
混沌竜がすでに活動を停止していることは分かっていた。首を斬り落としたのだから当然だ。その瞬間は驚いたが、異様に軽い音が鳴った瞬間に、いや、魔力が溢れ出した瞬間に理解した。
左腕から溢れ出した魔力は、優しく熱いものだった。間違いなく、セリアの魔力だ。
「……部分的にだけど……天現融合ができたのか……。危うく死ぬところだったが……まぁいいか……」
見ているだけでは分からなかったが、セリアの魔力はオレのとは比較にならないほどに濃く重かった。そして魔力そのものが、剣以上の斬れ味を持っていた。
そのおかげで少ない力で混沌竜の首を斬ることができた。……危なかった……本当に……。
「ミラ! おつかれ!!」
「おう……おつかれじゃ済まないほど疲れたよ…………」
「そうね。私もびっくりしたわ。まさか勝てるなんて思ってなかったから」
「……そんなのと戦わせてたのか……」
確かに今のオレの実力で戦っていい相手ではなかった。本来なら七星級程度、つまりルーシュや生徒会長か、あるいは十法帝が戦うような相手だ。
彼らであれば確実に勝てるだろうが、オレが勝てたのは単なる偶然だ。……それなのにセリアは止めなかったんだな。信頼してくれてるのかスパルタなのか……。




