第02話 相棒(1)
“ネフィル”という名を持っていたのは、歴史上三人しかいない。探せばいるのかもしれないけれど、少なくとも歴史の教科書に載るような人物は三人しかいなかった。
“終焉の大魔王”ネフィル=エスト、そしてその伴侶である英雄ネフィル=セルセリア、現代にも生きている“永久の魔天皇”ネフィル=ユリハだけだ。
そしてそのうちの一人が今、オレによって現世に召喚されたわけだ。
「君にはグランデュース=セルセリアって名乗った方がいいかしら?」
セリアの言ったその一言。オレを含めグランデュースとは、剣の一族として有名だ。神話の時代には何人もの英雄を輩出し……今では貴族でも何でもなくなってしまったが。
***
召喚は終わったため、オレはセリアと一緒に部屋を出た。人間、というより高い知能を持った魂は、死ぬとすぐに浄化、転生をすることが多い。
地獄に落ちた者は罪を洗うためにしばらくは彷徨うと言われるが、天界に昇った者であればよほど強い魂を持っていなければ一年もせずに転生するものだ。
それなのに一万年も魂の形を保っていたとは……そしてそんな偉大な魂がオレによって召喚されたというのがなんとも納得いかない。……が、それをセリアに言っても仕方ないのでオレは校門に着くまでは今の世界について簡単にセリアに説明をしていた。
セリアと話していて分かったことが二つあった。まず一つは、天転召喚によって現世に降りた魂は基本的な現代の世界を理解するようだ。全てを理解するわけではないが、セリアは彼女が生きていた世界から一万年経っていることを知っていた。
一般に使われている通貨や新たな技術についてもある程度知っているらしい。それはなんでも天界から現世を眺めることができたからだとか。
そして二つ目は、セリアは思った以上に普通の女の子ということだ。神話では聖母だなんだと書かれていることも少なくないのだが、どうやらそれは脚色されていたらしい。
知らないことに目を光らせながら興味を持ち、隙があればオレをからかい、そして歳を尋ねると怒る。“普通”の枠から外れている点を挙げるのなら、それは戦闘や戦闘能力の向上に対して非常に貪欲な“戦闘狂”の一面もあるというところくらいか。
「セリア、これからさっき話したルーシュと会うけど、幽体化して見えないようにしといてくれ」
「? 話しちゃってもいいんじゃないの?」
「たぶん色々質問攻めにあうから。父さん達にも話すし、そのとき一緒に説明する方が楽だよ。分かってると思うけど天人が召喚されるのは少ないんだから」
「なるほどね。それなら言う通りにしておこうか」
校門が見え始めるとセリアは姿を消した。彼女からしても逐一説明するのは面倒くさいらしい。それでもオレの脳内には話しかけてくるからやかましいのは変わらないが。
「あ! おーい! ミラ! こっちだよ!!」
校門まで歩いていくと、気づいたルーシュが元気に声をかけてきた。オレも返すように手を振って、やや足早に近寄った。そして西大陸に繋がる転移門まで歩きながら今日の話をした。
「で? どうだったの? 顔を見るからに失敗はしてなさそうだけど」
顔を見て分かるのか。ルーシュはよく顔を見ているのか、それとも敏感なのか。オレはそんなに分かりやすい顔をしているつもりもないのだけどな。
「召喚は成功したよ。でもまぁ……正直オレも想像以上のことが起こって動揺してるっていうか……だからまぁ詳しいことは帰ってから説明するよ」
「へぇ! もしかして天人を召喚しちゃったとか!?」
「……うん。……まぁ……そうかな。……そうっちゃそう」
「やっぱり? いやぁ……ミラはそうだと思ったんだよね。やっぱり素質があるっていうのかな!? ミラなら上手くいくって信じてたよ!!」
後で説明するって言っているのにずっと質問をされているな。そんなにも期待してくれてたのか。なんか嬉しいなと思っていると、セリアがオレに話しかけてきた。
(ねぇミラ、ルーシュって召喚に失敗しちゃったんだっけ? ミラよりも素質ありそうなのに、残念ね)
(……なんか複雑な感情だね。オレもそうは思うけど、あんま比べないでくれよ)
(まぁ天転召喚なんて、平和に暮らしてれば大して必要性が高いものではないけどね)
それもそうだ。天界から召喚される者は、あくまで召喚者の守護者として召喚される。それ故に召喚された者は防衛目的、あるいは同意の上での戦闘以外で現世の者に危害を加えることは許されない。
儀式を行うのが“16歳になる年”というのも、戦争の際にはその弱い命を守るために生まれたばかりに行われることも稀にあるし、天転召喚というのは大きな力から身を守るための手段なのだ。
ルーシュは戦争経験者なので幼いころに召喚できていればとは思うが、平和な現状を考えるのならば、天転召喚というのは必須のものではない。将来を考えるとしても、オレやセリアが守ってやればいいのだから。何より、彼女は強いし。
というのも……まずはこの世界の魔力と、能力について説明する必要がある。
魔力とは体内に存在する魔法や能力を発動するためのエネルギーで、大気中に存在するそれは魔素などと呼ぶが……それはまた別の話だな。
魔力の階級というものは魔力量を基準に存在するのだが、オレは三星級、ルーシュは六星級で……言わずともその差は分かるだろう。学園の教師だって大抵が五星か六星級だしな。
もっとも、オレの場合は魔力も少ない方だし、生まれてこの方ただの一度も増えたことがないという……まぁそれゆえに学園の人達からは忌避されがちなんだがな。
ちなみに政府直属の世界最強の10人を十法帝と呼ぶのだが、それは八星級という階級に等しい。ただ一人、圧倒的に強い者は九星級という階級にいるわけだが……。
加えてルーシュは生まれつきの能力保持者、つまり固有能力者だ。『神々の祝福』という……まぁ極めて強力な力だ。
オレも家系で似たような能力を発現する……継承能力者として力はあるが、やはりルーシュほどではない。ただそれがあるから嫌われてもいじめられたりはしないのだが……。
っと、そんなこんなであっという間に転移門まで到着した。そこから西大陸まで一気に転移し、オレの家がある“バラン”という街に帰ってきた。




