第27話 大洞窟(1)
部屋の少女は、黒く長い髪を靡かせながら優雅に座っていた。威圧感があり、それでいて品があった。そしてその少女は目を奪われるような美しさもあった。
「どうぞお座りください。シュバルト、戻って構いませんよ」
「はっ! 何かあればお呼びつけを」
オレは少女に言われるがままに椅子に座り、出されたお茶を見た。紅茶とも緑茶とも違うみたいだ。そしてシュバルトさんが扉を閉めるとその瞬間、セリアが幽体化を解き、少女に抱きついた。
「ユリハ! 変わらないわね!! でも昔よりずっと逞しくなってるね!」
「お姉様!! お久しぶりです! お姉様も変わらないですね!!」
少女はやはりユリハ様だそうだ。神話の時代から生き続けていて、その発言力は個人で中央政府に匹敵する。一部では神として崇められることもあるのだとか。
とにかく規格外のお方だ。しばらくユリハ様はセリアが話していたが、オレはその間お茶をゆっくり飲んでいた。気持ちが落ち着いくと二人も席に座った。
「びっくりしましたよ、私。まさかお姉様が現世にいらっしゃるなんて。レイジ君からの連絡だったので事実だろうと思ったのですが……いかんせん私の立場だと情報が届くのに時間がかかりますから」
「それにしても不老なんだって? 昔はそんなことなかったわよね?」
「私の能力『夢幻の主導者』って魔力が際限なく生み出される力でしょう? いつからかその影響で歳を取らなくなっちゃったんですよ。お姉様が亡くなって……おじ様がサタン様を倒したときくらいだったかな?時期は分からないんですけどちょうどそのくらいに“昇華”して……」
「いいことじゃないの?」
「身体は楽でいいんですけどね。一万年も生きてると疲れちゃうんですよ。この前グラ様も亡くなっちゃったし……。お姉様とまた会えたんで今は幸せですけどね! ですから私はミルアルト君に感謝をしないと」
「いや、オレなんて……ただの偶然ですよ」
「偶然か必然かは関係ありませんよ。事実として、君は私に光を届けてくれたんですから」
ユリハ様は優しく笑って感謝を述べてくれた。オレとしては努力したわけでもないからむず痒いのだけれど……拒否しすぎるのはこの人に対して失礼だと思い、オレは控えめにそれを受け取った。
「そうそう。せっかくこっちに来たしさ、ミラをいっぱい魔物と戦わせてあげたいの。二週間くらいこっちにはいる予定だけど、どこかいい所ってある?」
「なるほど、なかなか良い魔力をお持ちのようですね。……五星級でも目指すんですか? 随分と若いと思いますけど……」
「ミラは九星級を目指すって言うんだから。昔は今よりずっと強くなれる環境があったからね。その当時の私を超えるように鍛えてやるのが私の役目なの」
「そういうことなら……ここから東に600キロくらい行くと大洞窟があるんです。そこにシュバルトを向かわせようと思ってたんですが、代わりに行きますか?」
「あぁ……向こうね。確かに何かいるわね」
「詳しい情報は私達も得られてませんが……そっちの方が楽しめるでしょう?」
「そうね! じゃあミラと行ってくるわ!」
大洞窟かぁ……。洞窟なんて自分の目では見たことないな。そんなところに魔物まで出るなんて……なかなかファンタジーじゃないか。ただ600キロか……遠いな。……600キロも離れてるのにセリアは感知したのか?
「私が送りましょうか? 転移は魔力消費が激しいですが、私ならそう難しいことじゃありません。帰りは……十日後ほどでいいですかね?」
「助かるわ! 魔物が出るんじゃバスもないでしょうから。」
そう言うと、ユリハ様は転移門を開いた。それは政府が設置している問題と比べても遜色ないほどの出来で、凄まじいエネルギーを持っていた。そしてその門を潜ろうとしたとき、ユリハ様は何かを思い出したかのようにオレに声をかけた。
「そうだ、ミルアルト君。君が目指す九星……というよりも八星以上は特殊階級、つまり特級と呼ばれるものです。七星までとは違って相対評価ですから、ただ鍛えるだけでは届かないでしょう。でも君が本気で目指している間は、私もできる限りの応援をすると約束します」
「それはこの上なく心強いことですね。生意気ながら期待しています」
そう残して門を潜ると、そこにはユリハ様の城より大きく、薄暗い獄境の中でも際立って暗い洞窟が見えた。




