第26話 長旅ご苦労(2)
「序列を持ってる人は、みんな生徒会に入るのがしきたりだよ。生徒会役員になれば少しは忙しくなるけどその分自由に動けるようになるし、私でもなんとかできるくらいの簡単な仕事が多いだけ。そんなに難しいことじゃない」
「……勧誘か? そういうのは先生か会長がするもんだと思ってたんだけど……ルーシュだったら断れないとでも思われてんのか」
「ふふっ。イヤ?」
「…………獄境から帰ったら返事をするよ。それまでは待っててくれ」
この状況で考えることでもないが、正直快諾したいわけでもない。オレは楽にいたいんだ。生徒会なんて面倒なイメージしかない。
……ルーシュの言う通り彼女が問題なく務めてるということはそんな面倒じゃないか。……いや、問題はよく聞くから会長が尻拭いをしているのか。
「じゃあ良い返事を期待してるよ。私も仲良い人が増えると嬉しいからね」
「そう言われるとな……。生徒会には序列持ち以外はいるのか?」
「一応は生徒会補佐っていう立場で何人かいるよ。庶務をしてくれる人は多いに越したことはないからね」
……となると案外仕事は少ないのか? 引率だとか風紀の取り締まり、企画・運営とかそんな仕事だけなら割と楽……ではないけれど、その引き換えに学園内の自由や多少の権力を得られるなら美味しい話なのかもな。
「ルーシュはいつ自分の部屋に帰るんだ?」
「セリアさんが戻ったらかな。ミラのことだしたぶん無いだろうけど、もし体調が悪化したら大変だしね。」
「そっか。……あんま話すこともないけどな……」
「寝てなさいよ。病人なんだから」
「……じゃあ帰るときに起こしてくれ」
「うん。分かった」
オレは重い身体をベッドに落とし込み、オレは目を閉じた。ルーシュが近くにいるという安心感からか、今度は夢を見ることなく深い眠りにつけた。
気づけば日が暮れていた。目を開けば鋭い光が部屋を包み、セリアがオレの横に座っていた。
「…………ルーシュは……?帰る前に起こしてくれって……」
「私が戻ったときに帰ったわよ。ミラに声は掛けてたけど全然起きないから。頑張ってきてねって言ってたわよ」
「そうか……。そんなに寝てたのか」
「まぁいいじゃない。そのおかげですっかり良くなったでしょ?」
確かによく寝たおかげで身体は随分軽くなったが……まぁいいか。会おうと思えばルーシュとはいつでも会えるんだし。
「校長先生とは何を話してたんだ?」
「神話学者さん達の質問攻めにあっただけ。私の記憶の範囲で答えてきたわ。まだ終わらないでしょうけど」
「……大事じゃないのか? このまま獄境に行ってもいいのか?」
「歴史は大事だけど、今を生きてる人達の方がずっと大事だからね。さぁさ、早くご飯食べて寝なさい。今日寝てたくらいじゃ体力は回復しないでしょ?」
オレはセリアから渡されたお粥を食べ、再び瞼を閉じた。起きたばかりなのでしばらく暗い空間を眺めているだけだったが、目を閉じていれば少しずつ意識も閉じていった。
朝は一瞬で訪れた。体力はすっかり回復し、いつも以上に調子が良かった。人生で初めて、万全な状態で四星級の魔力を実感できた。朝日にも負けないくらいに滾る力に、これほどまでに感動するのはオレくらいだろう。オレのこの感動は、たぶんオレにしか分からない。
朝日が昇り始めて部屋を少し片付けたあと、オレはセリアの案内に従って獄境大陸のユリハ様の元へと向かった。転移門を利用して聖都から中央大陸の西端へ、そして西大陸を経由して南大陸へと向かった。
転移門を使えば移動にも時間がかからないため、南大陸までは一日も経たずに到着した。ここはかつて魔界と呼ばれていただけあり、魔素が他の土地よりも濃く強い魔物が多い。
そのためオレは冒険者に登録し、今日の夜まではひたすらに魔物を狩り、得た魔石を換金していた。
魔物というのは高濃度の魔素が一ヶ所に集まると生まれる怪物のことだ。魔物を倒せばその魔素は自然に還ったり結晶化した魔素、“魔石”に変化する。また一部は討伐者の魔力として吸収されるため、効率良く魔力を増やすことが可能だ。
冒険者はそんな魔物を狩ったり依頼を受けたりする仕事で、冒険者証を持っていれば魔石をギルドで換金することができる。オレは今はD級冒険者のためそれなりに制限はあるけれど、とりあえず魔物の狩場に入れるというわけだ。
翌朝、まだ日が昇らないほどの時間に起き、早々に空港へと向かった。獄境大陸は南大陸以上に魔素が濃く、転移門は安定しないため作れなかったらしい。距離が離れているのも理由の一つだとか。だから半日ほど飛行機の中で静かにしている必要がある。……頭の中でセリアと話せるだけまだマシか。
いざ獄境へ着いてみると、そこはまるでこの世とは別の世界のように思えた。昼間なのに薄暗い闇に包まれており、空気は異様に重かった。そして空港から2時間ほど移動して見えた城は、なんとも壮大なものだった。
「……人間の少年が訪ねてくるという話は聞いている。グランデュース殿だな? 念のため紹介状の確認をさせてもらう」
城門まで赴くと、門番が一人立っていた。人間とは少し違う雰囲気だった。かつて人間と争っていたという魔族の末裔か。……実在していたんだな。オレはセリアから受け取っていた紹介状を渡した。
「ふむ。……確かに魔皇様の筆跡だ。長旅ご苦労。城内は私が案内しよう。私はシュバルトと申す」
「グランデュース=ミルアルトです。よろしくお願いします」
オレはシュバルトさんの後ろについて、ユリハ様がいるという部屋に向かった。扉は大きく重厚感があった。黒を基調とした城の中でも一際黒く輝いている扉から感じる異様な雰囲気は、その部屋の中から溢れ出す異常な魔力のせいだろう。
シュバルトさんがノックをして名乗ると、部屋の中から心地の良い高さの声が返ってきた。扉の先には、一人の少女が座っていた。




