第14話 竜帝・ジルダ=シャルテリア(2)
「これほどまでに熱い魔力は感じたことがない!! 熱量は確実に父上以上じゃ!!」
「グラの能力は『硬化』だったけど……あなたは“重く”なってるようね!!」
「『加重過剰』じゃ! 余と触れているものの質量を自在に操ることができる!」
セリアの剣とシャルテリアさんの拳が交わり、闘技場全体に轟音が鳴り響いた。しかし、二人は触れ合うことはなく、何か見えない壁が衝突したようだった。
これが魔力の圧縮の真骨頂か。魔力を消費せずに鎧として、武器として活躍している。オレの目指すべきはこの境地だ。
セリアは火属性の魔力を剣に纏って、シャルテリアさんは氷属性の魔力を拳に纏っていた。シャルテリアさんは半人半竜の姿で身体能力を飛躍的に上げていた。
しかしその驚異的なスピードとパワーに怯むことなく、セリアも応戦している。いや、むしろセリアの炎にシャルテリアさんが押されているように見えた。
「スゴいですね……あの二人は。校長先生もあの人達くらい強いんですか?」
「ん? ……ふふ、私は十法帝の中でも新参者だからね。セルセリア様にも、竜帝にも敵いやしないよ。まぁある程度の戦闘は成立するだろうがね」
シャルテリアさんは何千年と十法帝として君臨しているらしい。九星には至らなかったようだが、やはり人間とは格が違うようだ。
二人の戦闘は離れているからなんとか目で追えるけれど、細かな手の動きなどは見切れなかった。ただ何かが衝突して衝撃波が発生し、二人とも吹き飛ばされるのを確認できるだけだ。
分かってはいたけれど、セリアはオレに対して今まで本気なんてものは出してなかったんだ。少しずつ戦えるようになっているのだと自惚れていた。セリアの剣の動きも、魔力の流れも追えないというのに……今の戦いを見るとオレとの特訓は児戯のように思えた。
「気圧されてしまったかな? ミルアルト君」
「まさか。こんなものそうそう見られるものじゃありませんよ。興奮し過ぎて倒れそうなほどです」
「ははっ! 君も大概だな!」
法帝の全力なんて、望んでも見られるものではない。少なくともオレがそのレベルに達しない限りは。セリアの全力だって、今見逃せば次の機会は当分来ないだろう。だからオレはずっと瞬きも忘れて見入っていた。
……が、何か違和感を覚えていた。オレからすれば二人とも全力に見える。何も完全には理解できていないのだから当然だろう。でも何か……何かが違うような気がしていた。そしてそれはシャルテリアさんも同じだったようだ。
「本気を出したらどうじゃ!? 余では物足りなんか!!」
「『氷の領域』!」
「? 私は充分本気よ……!!」
「『裂火剣』!!」
シャルテリアさんの氷が闘技場を飲み込み、一瞬のうちに冷気に支配された。が、それも束の間、炎よりも高い熱を帯びたセリアの剣が、凍った空気、地面、壁を溶かし、一振りで氷の世界を一刀両断した。
その刃はシャルテリアさんの首元を斬ろうとしていた。そうならなかったのは既に勝負が決していたからだ。既に闘技場はセリアの熱に包まれていた。
「……参った。話に聞いていた以上じゃった。余ではセリアには敵わん」
「そんなことないわ。あと一手遅れていたら氷に飲まれていたのは私の方だわ。殺し合いであったなら勝負は分からないわね」
セリアは手を差し伸べ、凍てついたシャルテリアさんの手を取った。どちらも息が荒れ、出せるものを出し尽くしたような満足感を見せていたが、シャルテリアさんに限っては少しばかり不服そうだった。
「しかし余は悲しいな。力を出し尽くしてもお主はこれほども全力を出しはしない。お主にとって余は取るに足りない存在じゃったか?」
「それはオレも思ったんだ。セリア、なんで能力を使わなかった? ずっと基本的な魔力操作と魔法くらいしか使ってなかっただろ?」
「あー! それでシャルったら機嫌が悪いのね! グラからこの話は聞かなかったかしら?」
「“この話”とは?」
「私ね、能力が使えないのよ。厳密に言えば昔は持ってたんだけど今は持ってないってこと」
「……は?」
そんなこと……あり得るのか……? 能力というものが失われるなんてことは聞いたことがない。
死んだ者だって例外はないはずだ。ましてやセリアは継承能力者だ。一般的な能力保持者以上に魂に深く刻まれていただろうに……。
詳しいことは後で話すと言われたので、オレ達は再び校長室に戻り、セリアの話を聞くことになった。




