第13話 竜帝・ジルダ=シャルテリア(1)
オレは授業を終え、校長室へと向かっていた。近づくにつれ圧を感じる。確かに何者かが来ているのだと、オレは肌で理解した。校長室の前で深呼吸をし、気を引き締めてから扉を叩いた。
「グランデュース=ミルアルトです。授業が終わったので参りました」
「どうぞ入りなさい」
扉を開けると、そこには三つの人影があった。校長と副校長と……もう一人は知らない女の人だ。
いや、会ったことがないだけでオレはその顔を知っている。今の世を生きる者であれば、その顔を知らない者はそうそういないことだろう。
「よく来たね、ミルアルト君。紹介しよう。十法帝が一人、“竜帝”ジルダ=シャルテリアだ」
「は、初めまして。グランデュース=ミルアルトです」
「そうか。お主がグランデュースの血筋か。話には幾度と聞いてきたが、会うのは初めてじゃな。じゃが、余が会いにきたのはお主ではなく守護者の方よ。かのセルセリア様を召喚したとの話は事実であろうな?」
「ええ、もちろん。そうでなければ校長先生もお声をかけないでしょう」
オレはそう言ってセリアに幽体化を解くように促した。やや高圧的な雰囲気で、威厳を感じられた。さすがは竜の王、竜帝というところだろうか。オレとは住む世界が違う方のように思えた。
「初めまして、私がミラの守護者、ネフィル=セルセリアよ。当代の竜帝、グラの娘さんで合ってるわよね?」
「……はい。あなたのことは父上からよく聞いておりました。ここに来るまでは半信半疑でありましたが……その魔力を見るに偽るような方ではなさそうだ。余……失礼、私もまさか現代になって亡くなられた父上のお仲間だった方に会えるとも思えず……」
「口調は気にしなくていいわよ。丁寧じゃない方がグラっぽいわ。私のことはセリアって呼んで」
「あなたがそう言うなら……余はいつも通りに話すとしよう。余のことはぜひシャルと呼んでくれ。父上や……ユリハ様はそう呼んでいた」
先代の竜帝が亡くなられたのは去年のことだったか。ユリハ様と並び世界でただ二人、神話の時代から生き続けていた存在だった。
不老のユリハ様とは違い、歳を重ねて長いこと隠居なさっていたそうだからオレ……世間は晩年の先代竜帝・ジルダ=グラダルオ様についてはよく知らない。
当然若い頃のことも詳しくは知られていないし、そういう意味ではセリアとシャルテリアさんの互いの記憶を交流することは大きな意味があるのかもしれない。
「俺もシャルって呼んでいいかな? その代わり俺のことは好きに呼んでくれて構わないよ」
「貴様と余はそんな仲ではなかろう。生意気にも余と同じ称号を持っているだけじゃ。首を落とされたくなければ口を閉じて黙っていろ」
おっと……。校長とシャルテリアさんはどうやら仲が良くなさそうだ。もしかしたら十法帝の方達は険悪な仲だったりするのだろうか。
「してセリアよ。失礼ながら、余の頼みを聞いてくれるか?」
「私にできることなら」
「少々手合わせ願いたい。余は今まで一度たりとも父上に勝つことはなかった。今の余の力が英雄にどれほど届くものか、確かめてみたいのじゃ」
「それくらいなら構わないわよ。私が死んでからグラがどれだけ強くなったのか知らないけれど、たぶん充分な指標にはなるんじゃないかしら」
「感謝する。ミルアルト殿、悪いな。お主の守護者を少々借りる」
「構いませんとも。ただオレも見学をさせて頂きたい」
「カッカッ! それを拒めるほど余は偉くないからな。もちろん好きにしてくれ。おいレイジ! 闘技場を借りるぞ!」
「闘技場は普段封鎖しているから俺が案内しよう。セルセリア様は幽体化することをお勧めしますよ。まだ残ってる生徒達もいるでしょうから」
そうしてオレ達は闘技場へと向かった。校長やシャルテリアさんと歩いているためにすれ違う人からは注目を浴びていたが、闘技場に近づくにつれてそもそもの人影が少なくなった。
校長が闘技場の鍵を開き、オレは客席に座った。そして主役となるセリアとシャルテリアさんが闘技台に立ち、校長が護符を一つずつ渡した。
「セルセリア様、この護符を魔力で燃やしてください。そうするとあなたの攻撃は結界内であれば物理的な影響を出さなくなります。無制限に戦われると闘技場も無事では済まなくなりますから」
「エストが使ってたヤツね。条約が内蔵された魔法陣でも刻まれてるのかしら。面白いわね」
セリアとシャルテリアさんがそれぞれ護符を燃やし、それを確認して校長も客席へと戻ってきた。
そして試合は合図もなしに始まった。いや、オレが気づけなかっただけで二人の間には合図があったのかもしれない。とにかく刹那の間に二人は衝突した。




