第135話 運命(2)
時同じくして遠方の地、その架空空間の地下深く。歴史の破壊者の拠点にてそれらは製造されていた。
理屈はそう難しいものでもない。肉体の能力により強靭な肉体を作り、サタンの能力で魂を埋め込む。その魂のほとんどは無から生み出したものではあるが、そんなものでは雑兵にしかならない。もっとも、その雑兵ですら七星級の保証はされているのだが。
そしてそんな地下では怪しく光る培養ポッドが無数に立ち並び、その中に一際大きな魔力を帯びたものがあった。
「ふふ……おいアルファ。そろそろ目覚めそうだな」
「お下がりください。危険にございます」
「生意気を。私直々に拾ってきた魂だ。その目覚めを目前に、どうしろというのだ」
ルシファーは疼く心を抑えながらそれを見守った。次第に大気は蠢き、振動し、魔力を増幅させる。
そもそも、彼らが獄境を一時的にでも支配した理由。それこそがこの魂だった。ユリハを従えて世界やルーシュという依代にショックを与えるというのはあくまで二の次。
かつて神話の時代、第三の魔神と呼ばれた存在。第一の魔神に殺され、それ以来転生せずに削られ続けていた者。その名は……。
「ははっ、素晴らしい! 貴様が……ッ!」
「ルシファー!!」
瞬間、培養ポッドのガラスが弾け飛び、中の男は瞬時にルシファーの顔面を捉えて壁をいくつも突き破った。そしてもう片方の手がその顔に振り下ろされようとしたとき、アルファが握り潰すように掴み、止めた。ミシミシと、完成したばかりの肉と骨が軋む。
「王に手を挙げるとは何様のつもりですか……? あなたは王によって生を受けた……」
「おいおい〜、痛ぇじゃねぇか。いつまでも掴んでんじゃ……?」
男がアルファから手を解き、その顔をマジマジと覗き込む。そして顔をしかめながら、気怠そうにルシファーを手離し、立ち上がった。
「なんだお前、知ってる顔かと思ったら、なんか違ぇな。なんだ? お前」
「……私はアルファです。王に謝罪をしなさい」
「へっ、やだね。お前はコイツが俺に何をしたのか知らねぇんだ。おっと、そう怒るな」
ヘラヘラとしながら、男はアルファを宥めた。アルファの方はといえば、それを不服そうに睨んでいるものの。ルシファーの制止によりその手は行き場を失っていた。
「過去の因縁に決着をつけるのも面倒だ。……そんで、お前はサタンとルシフェル、どっちだ?」
「私はルシファー、お主の主人……いや、契約者とでもいこうか」
「だははっ。おいおい、面倒くせぇ身体になっちまってんじゃねぇか。なんで俺を目覚めさせた?」
「戦力が欲しいからだ。私とアルファでは足りないかもしれないのでな。第三の魔神・アスタロトよ、お主にはこれから力を貸してもらいたい。まず……」
***
「はぁっ、はぁっ……」
「おいおい、強くなってんなぁ!」
「ぐっ……!」
No.8の猛攻を、オレは刀で受けながらも押され続けていた。彼が持つのは禍々しい骨の大剣。それを振る怪力は、オレの魔力でも相殺できない。加えて視界が血に滲み、思うように捉えられない。
「くっ……なんだ、そのっ……剣はッ!!」
「ふふ、気になるか……?」
剣筋を逸らしながら、けれど確実にオレの皮膚を削り斬る。骨の剣の恐ろしい点はその痛みだけでなく、変幻自在のリーチにあった。
「『生死断絶』、それが俺の能力さ。この骨は俺の骨……つまり! 俺の魔力そのもの……」
「ぐぁッ……!」
「だッ!」
大振りの一太刀、殴り飛ばされるように木々の間を、そして小さな都市を貫通した。身体の内側が嫌な音を立てて泣く。
「ぐはっ、げほっ……げほっ」
「きゃ、きゃぁああっ!」
「き、君! どうしたんだ!」
どこだ、ここは? ……くそっ、知らない街にまで飛ばされ……? まずい、ここは民間人が……!
「あんたら、逃げ……ッ!」
「武骨展命開」
刹那の出来事だった。オレの周囲を、いや、街を取り囲んだのは巨大な骨の柱。どこからともなく爆発を呼び、そして住民達は皆……。
「がッ……げほッ!」
オレ達の腹を貫き、皮膚を削り。弱者の命を削り取った。悲痛な叫びは一瞬、今はすでに鎮まり返って。鳥籠の中、見上げる空は赤く見えるほど。
「がッ……はッ! No.8……!」
「お前は殺せねぇんだ。そういう、アリベル・ルーシュとの決め事らしいからなぁ」
「ぐッ……!」
淡々と言いながら、オレの肩をゴリゴリと貫く。骨と骨が削り合い、痛みだけを与える拷問だった。
(セリア……ッ!)
(えぇ、任せなさい)
「ん……? はっ、そうだったなぁ!」
天現融合、個人の能力が高まれば高まるほど、それによる能力の上昇幅は小さくなる。師匠との特訓によってほぼ限界まで引き上げられたオレにとってセリアの魔力、魂との融合はさほど大きなものではない。しかし、あえて融合を中途半端に止めれば、セリアの膨大な魔力をそのまま運用することも可能だ。
「『絶天』!!」
一閃、炎の魔力が斬り開いた。人のいない街を、家を上下に二分する。その魔力がいかに規格外か、いまのオレだから分かる。
「まだだぞ、No.8。オレはまだまだ、本気なんか出しちゃいねぇんだからよ」
「負け惜しみか? なんでもいいが、楽しませろよ」
燃え盛る刃の先は、確かにヤツの喉を狙っていた。




