第133話 アルファ(5)
「……は? なんだコレ……」
学園の騒動も落ち着きを取り戻し、校長室で一息ついていたときのこと。オレの手に入ったのは号外の新聞だった。
そこに書かれていたのは簡単に説明したらこうだ。
「魔天皇ユリハが中央政府に宣戦布告……配下に下るなら今のうちだって……」
ユリハ様はそんなお方ではない。そもそもあの人は人類に協力的だし……。何かがおかしいが……。
「たぶんアレだね。歴史の破壊者の仕業だよ。ユリハに何かしたみたいだし……」
「あ、おかえり、セリア」
ただこれが事実ならば……いや、事実でなくとも、これは楽観できる問題ではない。ユリハ様は神話の時代からの存在だ。それだけに影響力は、個人で中央政府という大組織に匹敵する。十法帝を抱えている政府は迎え撃つ姿勢になるだろうが……。
「ユリハとの戦争は起こらないよ。エストがユリハを助けに行ったみたいだから、まずその問題はない」
「……なら良かったけど……。だけど、でしょ」
「まぁそれはそうね」
ユリハ様が敵対しないからと、どちらにせよ世界は混乱しているはずだ。それだけの影響力がある。歴史の破壊者の目的がその混乱だったとして……。
「校長先生、どう思います? 政府はどんな判断を下すでしょうか?」
「さて……その辺は十法帝がこれから協議すべきだが……まず戦闘になるだろうな。こうなってしまえば世界の混乱は収拾がつかない。たとえユリハ様が撤回をなさってもね」
「……参りましたね」
この混乱に歴史の破壊者は何を起こすか……。どこかを襲うのか、それとも戦力が纏まらないうちに戦いを始めるか……。
「ただ一つ分かりましたね。歴史の破壊者が異常な戦力を抱えながら、今まで大々的に動かなかった理由が」
一つはルシファーの身体が自由ではなかったこと。思えばヤツら、“王の準備が整ったら”とかなんとか言っていたか。憎々しいが、ルーシュの肉体の主導権を得たから。今までは余計に人を殺せば、ルーシュの魂が大きく揺れて肉体を乗っ取れない可能性があったのだろう。大事な身体が崩壊してはどうしようもないから。
それともう一つ、それは師匠の存在だ。ルシファーとアルファの撤退、アレは師匠の……ネフィル=エストの存在を感じたからだ。ルシファーの準備が整い、今は全面戦争に備えているのだろうが、つまりオレ達に必要な戦力は……。
「しかしセルセリア様。その……エスト様がまだご存命だというのが信じがたい話ですが……」
「ルシファー、つまり歴史の破壊者については手伝ってくれるらしいわ。でもたぶん、ちゃんと協力するのは難しいかも」
「それはどうして?」
「だってあの人、本来は10,000年以上も昔の存在だもの。ルシファーも似たようなものだから放置はしないけど、世間に知られていい存在じゃなければ影響を及ぼしていい存在でもない。って思ってるらしいから」
……まぁ仕方ないか。この時代を守るのはこの時代の者であって、そもそも師匠はご老体だ。あの性格、なんだかんだいざってときは守ってくれそうではあるが、頼るのは違う気がする。
「ただ師匠が動いてくれなければ話にもなりませんから。番外と戦うなら十法帝が最低でも三人、それかベルドットさんが必要です」
「……それはエプシロン、つまり番外の最下位が指標だろう? 天空都市で遭遇したというベータ、それからアルファはどの程度だと思う?」
「……ベータと戦うならベルドットさんと、他の法帝が二、三人でしょうか。アルファは……分かりません」
あの怪物は数をぶつければ勝てる相手なのか、それとも全戦力をぶつけても勝てるかどうか。番外全員……四人を相手にするなら、まず戦力が足りない。加えてルシファー、そして番外ではない者達。
「……いやいや、勝てるのか? そんな怪物達に……正直、戦えるイメージが浮かばない」
「だからこその師匠……ネフィル=エスト様でしょう。あとは……師匠が片付けてくれるならユリハ様も、でしょうか」
「……いや、ユリハのことは当てにしない方がいいよ。ルシファーが接触して、戦線復帰できるとは思わない。たぶんエストが色々元には戻すだろうけど、それでも魔法とかは上手く使えないはず」
「……魔眼か」
アルファの魔眼を体験したから分かるが……でも師匠はオレのはすっかり治してくれたしな。ただアレは封じる類いではなかったか。
「まぁ、何はともあれだ。ミルアルト君、今日は休みなさい。それと……エスト様のことは口外禁止ですね?」
「えぇ、それでよろしく。シャルは知ってるけど、他の法帝にも言っちゃダメよ」
「えぇ、承知しました」
確かに今日は疲れたな。ルーシュのこともあり、ずいぶん参ってる。オレに足りない力を……もっと力が必要だ。




