第131話 ルシファー(3)
「校長先生! 起きてください!」
「ん……ん? くっ、あぁ……ミルアルト君か。……ッ!? ルーシュさんは……!?」
「……撤退しました。まずは安心してください」
部屋の植物もなくなり、学園は元の姿に戻っている。時間が巻き戻ったように……つまりそういうことだよな。死人もいなさそうだし、とりあえずは気にすることもなさそうだ。
「校長、副校長はどこにいらっしゃるんです?」
「ん? あぁ、彼はね、私の守護者だから。私の魔力が回復したらまた出てくるよ」
「あ、へぇ……そういう感じなんですね」
思えばない話でもないか。そりゃあ先生にも守護者はいるわけで……それを身辺サポートに徹底していたと。
「……一体何者だ……ルシファーというのは。それにルーシュさんは……」
「……校長」
「あぁ、いや。申し訳ない。君の知ってることじゃないわな」
ルーシュがルシファーに乗っ取られているのならば、オレはルシファーを倒す必要がある。そのためにはアルファもベータも倒す必要があって……何にせよ、戦力が必要だ。それで……ジンリューの魔力がないな。
「何をやってるんだ、あの人は……」
「ね、ねぇ、ミラ。私さ、すぐに戻ってくるから……ちょっとだけ……」
「あぁ、師匠の。行ってきなよ。オレはちょっと生徒会の方とも交流してた方が良さそうだから」
「そう!? じゃあちょっと、悪いね!」
そう言いながらセリアは駆けていった。久しく会う伴侶、そりゃあ居ても立っても居られないだろう。師匠が時間逆行の術を使えるのなら、オレは師事したこと以前の礼をしなければならないが……それはルーシュを助けてからだ。
「校長先生、どうでしたか? ルシファーの強さ」
「……異常だね。アレは。他の法帝達ときちんと交流を……あぁ、参ったな」
「……?」
***
「エスト!」
「ん? ……おぉ」
ミラの元を離れたセリアは、最高速度で学園の外へと走っていった。廊下を燃やしながらも、それでも構わず彼の元へ。現代ではアリスと名乗っている、伝説の存在の元へ。
「……セリア、変わらないな」
「私はね。エストは……結構老けたみたいで」
「ははっ、確かにおれはジジイになっちまったよ」
彼らの間に流れていたのは、一万年前のものだった。姿も立場も変わってしまったが、彼らの愛は未だ衰えず。セリアは一歩、エストに近づき、彼はそれを止めた。
「セリア、君には合わせる顔がない。一万年も天界で寂しい思いをさせて……おれはのうのうと現世で生きてる。ここまで長生きするとは思えず……ごめん」
「ふふ、謝る必要ないじゃない。長生き……ここまですると苦しかったかもしれないけどさ。私は生きててくれて嬉しいよ。こうやってまた、会えたじゃん」
「……怒ってないのか?」
「何にさ」
セリアはエストの手を振り払って、彼の懐に飛び込んだ。一万年ぶりの再会、抱擁。天界と現世で交わることのなかった二人が、時間を共有した。
「おれはちょっと、獄境の方に行ってくるよ。ってのもな、ちょっとユリハの方が面倒なことになったみたいで」
「……面倒なこと?」
「あぁ、でも問題ない。おれが行くから、久しぶりにあの子にも会いに行ってくるよ」
ユリハがルシファーに負けたこと、それは誰も知り得ないこと。が、エストは大陸の向こう側から魔力を感知することで、それを認識していた。娘とも言える彼女のことを、誰よりも注意していたから。
「それと途中、厄介ごとが起こってるみたいだな。それも止めてこよう」
「ねぇ、エストはもう……今の時代も助けてくれるの?」
「無条件ではないけどな。あくまでルシファーは昔、おれがルシフェルを仕留め損なったことが原因だ。だから始末はおれがすべきだと思う。ま、そう簡単にもいかないだろうがな」
「……なんで?」
「向こうには何かがいるからだ。ルシファーより異質の……何か異常なヤツが」
ルシファーより異常な存在……セリアの頭をよぎったのはアルファだった。初めて見たときに感じたエストに似た気配。アレだけは歴史の破壊者の中でも何かが違う。
「ねぇ、また会える?」
「あぁ、いつでも会おう。ただ君は今は……君の立場があるだろ?」
「……そうだね、まずはミラを守ることが優先だ」
二人はハイタッチをしてそこを離れた。一人は契約者の元へ、もう一人は争いの元へ。そこに二人の英雄が集っていたことは、どこの誰も知らない。




