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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第八章 天空都市
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第130話 ルシファー(2)

 人工生命体ホムンクルスを払いながら、オレは校長室に向かって走り抜けた。一瞬、異様な魔力がルーシュのものに変化したように感じた。……いや、そんなわけはない。何にせよ、そこにはセリアがいるはずだ。ならば何があっても大丈夫……。


「はぁっ……はぁっ……セリ……ッ!?」


「……早いな、ミラ」


 目の前にあったのはおかしな光景だった。草花の生い茂り、燃え盛る一室、そこに倒れる校長と片腕を飛ばされたセリア……そして何より……。


「おい、ルーシュ……何の冗談だよ……」


「無礼者め、口を慎め」


 黒い髪、黒い瞳。それはルーシュのものではない。けれど、その肉体は確かにルーシュのものだった。間違えるわけがない。オレが何年、ルーシュを見てきたと思っているんだ。


「お前は何だ!! なぜルーシュの身体を……ッ!」


「耳障りな名を呼ぶな。まったく……名を失ったからと私の名前を使いやがって。記憶に刻め、私はルシファーだ」


「ッ……!」


 ルーシュが……ルシファーだと? いや、そうじゃない。ルーシュの中にいたんだ。てっきり、歴史の破壊者(デスティニー)の内通者が学園にいるのだとばかり思っていた。しかしそうじゃなかった。内通者ではなく、歴史の破壊者(デスティニー)そのものが、ルーシュに……!


「『天翔てんとの』……ッ!」


「慎みなさい。王の御前ですよ」


「ぐッ……アルファ……!」


 怒りのままに天現融合をし、斬りかかろうとした瞬間、どこからともなく現れたのが仮面の男だった。3度目だ、オレの前に現れるのは……。肩から腰にかけて斬り裂かれ、熱が苦しい。


「はっ……はっ……! お前ら……ルーシュを……」


「しかしミラよ、君には感謝もしているのだ。君がいたからこの娘の心を折ることができた。君の安全を保証しなければ、娘は身体を明け渡さなかったろう」


「くッ……」


 顎を持ち、見下ろす視線に抗うことができなかった。強い、ただそれだけじゃない。まるで世界が違う。どう戦っても、一撃さえ入れることはできなさそうな……。


「ミラ、今は君を見逃すとしよう。君を殺しては娘の魂が崩れ、私の身体も崩壊してしまう。また次の機会だ」


「ルシファー、ネフィル=セルセリアはどうしますか?」


「守護者は殺せるものではない。それに言ったろう。現段階で人を殺せば、娘の魂が崩れかねん。放っておけ」


「承知しました」


 ルシファーとアルファ、この2人がいてはまるで相手にならない。たとえセリアがいたとしても、敵わない。敵う人間などいない。いたとしたら……。


「ッ……ルシファー、撤退しましょう。奴が近くに来ています」


「何? タイミングの悪い。……が、お前を連れて来て良かった」


「お……おい! ルシファー!」


「ん?」


 傷が痛む中、痛む肺を無視して声を張り上げた。脚は立たない。握った拳からは血が流れるばかり。


「はぁ、はぁ……お前は……オレが殺す! ……殺して、必ず! ルーシュを助けるぞ……!」


「ふっ、言っておけ。せいぜい楽しみにしておこう」


 そう言って2人は姿を消した。思えば分からないことでも無かった……。ルシファーが初めて現れたという、そしてルーシュが全てを失くしたパンバール戦争。ルシファーが元凶だと、そのせいでルーシュが親も祖国も失ったのだと……!


「くそっ、くそっ……!」


「……ミラ、とりあえず逃げよう。ここも炎が……」


「……あぁ、セリアも腕、大丈夫か……?」


「死人だからね。魔力が回復したら治るよ」


 そうだ。まず落ち着け。炎が燃え広がって、学園が崩壊する。今のセリアの魔力ではこの炎を全て回収することはできない。ならばまずは……死なないために、ルーシュに誰も殺させないために、みんなを誘導して……。


「あ……」


「どうした、ミラ?」


「いや……こっちの心配はなさそうだ」


「……あ、本当だ」


 オレしか感知できないであろう、膨大な神聖力。アレを扱えるのはあの人しかいない。ベルベットさんでも、学園を包むほどではないはずだ。それをセリアも感知できるのは……長い関係ゆえかな。


「『天地逆行リヴァース』」


「ははっ……規格外」


 どこからか聞こえたそんな声に、周囲はみるみるうちに元に戻った。炎は消え、瓦礫は壁に直り、倒れたひとたちの傷も治った。当然、オレや校長の傷も。まるで何も起こっていなかったかのように。


 後に世界に届いた報せは3つ。1つは聖都魔法学園に起こった襲撃について。天空都市が墜落し、崩壊した学園。しかしなぜか全てが元通りになったと。


 2つ、十法帝の敗北について。死者はいなかったらしいが、怪我により再起不能となった者もいた。


 3つ、これが最も世界を震撼させた。その内容というのが、魔天皇ネフィル=ユリハが人間に対して宣戦布告をした、ということ。

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