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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第八章 天空都市
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第129話 ルシファー(1)

「くっ……! ぬぁあ! 死ぬかと思ったぁ!」


 瓦礫に押しつぶされ、あと一歩のところで死ぬところだった。空は真っ青、背後には街、正面には学園。見たところ怪我人……は多少はいそうだが、重傷にはなっていなさそうだ。ランファ先生がなんとかしてくれたのかな。


「……?」


「なんだ……コレは?」


 学園から漂う異常な気配……何かが、いや、魔物がいる。それもただの魔物ではない……どこか変な……襲撃されているのか? いや、今はそれより……。


「シューレットさん! 法帝の方達に連絡してベータを追ってください!」


「あ、あぁ! しかしここも……」


「ここには戦力は充分あります! それよりヤツを逃がす方がマズい! 絶対に一人では戦わないで!」


「っ……あぁ、承知した!」


 飛び去るシューレットさんの背中を流し、視線を学園の方に向けた。こっちも歴史の破壊者(デスティニー)だな。ジンリューも校長もいるから平気だろうが、こうもタイミングが重なると……計画か。


「……内通者か。それっぽいヤツは見当たらなかったんだけどな」


 今優先することは第一に敵の殲滅と生徒達の保護……は先生達がやるか。ただベータが撤退したということは、それなりの戦力がここに……。


「ッ……!」


「どうした、グランデュース?」


「……感じませんか?」


「魔物のようなものがいるな。逃げろと言っても無駄だろうから、生徒達の救出に協力してくれ」


 感じないのか? この魔力を……いや、そうか。オレだけだ、この魔力をよく知っているのは。そしてそれを超える異質さを持つ魔力もある。源は校長室か。


「セリア! こうなったら正体がバレちまっても構わない! 先にあっちまで行ってくれ!」


「分かった!」


「先生! オレは向こうに!」


「あ、あぁ」


 セリアを実体化させたことにジンデール先生は戸惑いを見せているが、仕方ない。そもそも彼女の姿を見たところで正体を掴める者はいないはずだ。


「きゃあ!」


「ぐぁッ!」


 学園中で暴れ回る異形の魔物。人型だが、知能は感じない。人工生命体ホムンクルスの一種だな。魔力量も……手こずるような相手では……。


「『殲滅剣ガリュード』!」


「ぐぎゃッ!」


 魔力を纏った剣の一撃、その一振りで斬り裂いた。やはり脆い。雑兵か。


「アンタら! 今のうちに逃げ……ッ!?」


「ギャウ!」


 斬ったはず。血は流れ、ダメージはある。それなのに……なぜ生きている? そしてこのパワーは……!


「そ、そいつら皆んなそうなんだ! 削れはするんだが倒せない!」


「ッ……何でだよ!」


 異形の身体から繰り出される打撃は異常に重い。魔力量は大したことないのに、膨れた腕の筋肉のせいで……。受けるだけで腕が痺れる。流さなきゃダメだ。


「だが待て! 途中、コイツの死体も見たぞ!」


「分からん! 強力な魔法なら効いていた!」


 魔法が? 弱い魔法は効かないのか。しかし剣も打撃も効かない……いや、魔法というのなら魔力は纏っている。何がいけないんだ……。


「そうか!」

「『ファイア』!」


 手のひらからセリアの魔力を引き出し、それだけを放出した。案の定、ただのそれだけで身体が崩壊していった。魔力の出力は上げる必要はあるが……。


「魔力だ! 魔力だけを使え! それ以外は全て吸収される!」


「お、おう!」


 裏を返せば、純粋な魔力だけをぶつければ簡単に倒せる。が……何が狙いだ? 歴史の破壊者(デスティニー)がこんな……時間稼ぎにすらならなそうなものを使うとは……。


◇◇◇


 セリアはただ走り抜けた。炎で人工生命体ホムンクルスを焼き払いながら、魔力の渦巻く中心に向かって。


「この魔力……間違いない」


 圧倒的に異質な魔力。彼女は一度、それを目の前で見たことがあった。当時の法帝達が挑み、そしてネフィル=エストが消し去ったはずの魔神。その魔力に限りなく近い、けれどさらに何かが混ざったような魔力。


 校長室の扉を斬り倒し、そこに脚を踏み入れた。その部屋に広がっていたのはまるで花園。蝶が舞い、草木が天井を貫いている。そして血を流して倒れているのは校長、シュールラ=レイジ。その近くに立つ少女。


「何……これ……」


 夢や幻ではない。ここに、小さな部屋に、自然が生成されていた。美しさと危うさを孕んだ異様な気配。魔力の軋みさえもスパイスでしかない。そしてそこに立つ、桃色の髪の綺麗な少女……。


「ねぇ……セリアさん……」


「あなたが……やったの……? ルーシュ……」


 紛れもなく、そこにいたのはルーシュだった。ただ彼女は、十法帝である校長に敵うほどの力はない、はず。それでもこの光景を信じるのならば……。


「私……どうしよう。アイツが争いは起こらないって言うから……ミラの命だけは保証するって言うから……! 私、良いかもって思っちゃって……もう私の身体……思うように動かないんだ……ッ!」


 濡れた瞳で訴えた。身体の支配権がルーシュにはない。今喋らせているのは支配者の気まぐれでしかない。


「ユリハ様まで……傷つけちゃって……。どうしよう……どうしよう……!」


「ッ……ルーシュ! 落ち着い……ッ!?」


 セリアが手を差し伸ばそうとしたその瞬間、彼女の右手は宙を舞った。斬り落とされたのだ。誰に? ……いや、ここにいるのは彼女とルーシュだけだ。ただルーシュの中にはもう一人……。


「私に手を伸ばすとは……何様のつもりだ?」


「ッ……お前ッ!」


 全ての魔力が解放され、支配権が移った。綺麗な髪は漆黒に染まり、美しさも恐ろしさも兼ねた瞳に変化した。


「我が名はルシファー。死人ごときが気安く触れていい存在ではない」

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