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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第八章 天空都市
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第128話 都市陥落(2)

***


 遡ること数時間、それはミラ達が天空都市に向かう少しだけ前のこと。獄境の空は変わらず暗く、そこに2つの影が落ちた。


 一人は少女、そしてその背後に待機しているのは仮面で顔を覆った青年。2人は幾千幾万もの兵を退け、その大扉を蹴破った。


「……お話には聞いていました。ルシファー……あなたが……っ!」


「まぁまぁ、そう言うでない。魔天皇よ、私は今、非常に気分が良いでな。少し、語らおうではないか」


 ルシファーはふてぶてしく椅子に座り、魔天皇・ネフィル=ユリハと向かい合った。魔力の衝突により、城は軋み、崩れ始めていた。


「改めて、自己紹介でもしようかね。私はルシファー、こっちはアルファだ。神話の時代より生き続ける伝説、あなたのことは尊敬しておるのだ」


「……何の当てつけですか?」


「ふふっ……この身体のことか? いやなに、私がこの身体に生まれただけよ。この少女は哀れなものだが、仕方なかろう。私だってわざわざ命を投げ捨てようとは思わん」


「そんなことを言っているのではない……ッ! 私の前に現れるというのが……!」


 ユリハは大きく息を吸って落ち着きを取り戻した。握りしめる拳からは、血の雫が滴っている。


「13年か……長かった。なかなか肉体の主導権を握れずにいてな、今も自由ではないが」


「ならばなぜ……今?」


「タイミングが良いのだよ。この、今のタイミングがな。この少女も愚かなものだ。私の作る世界には、戦争もないと言えばまるで阿呆のように心を揺らがせおった」


「……貴様ッ!」


 ユリハが抜いた魔法の刃、それが横一閃に斬り裂いた。城は2つに分かれ、獄境の空間は2つ分断された。暗い世界の魔素は揺らめき、少しずつ修復を始める。


「ふははっ! いきなり、随分ではないか!」


「流石に……これでは殺せませんか」


「よく言う。殺す気もなかったくせに」


「あなたを殺せば……その子も死ぬでしょう?」


 ユリハとルシファーは空に飛び上がり、魔力で足場を生成した。ユリハは空中に氷や炎、雷の刃を作り出し、長い髪を靡かせた。


「ルシファー、私が出ましょう。あなたは王、戦闘は私に……」


「おいおい、楽しみを奪うでない、アルファよ。それに奴は、私が沈めてこそ意味がある」


「左様ですか。……ならば邪魔が入らぬように兵は止めておきます」


「殺しておけ。お前は任せると生かしがちだからな」


「……いやしかし、多少は生かしておいた方がいいでしょう」


「……それもそうだな」


 ユリハは無限の魔力を活用し、大陸を飲み込むほどの大魔法を連発した。炎の波が風の波に飲まれ、水の波が雷の波を運んだ。対するルシファーは空間を捻じ曲げ、ことごとく捌いていった。


 それから獄境大陸……いや、世界全土が揺れたのはほんの数十分のこと。長い地震も、その原因が解明されるのはまだしばらく後のことだ。


「……終わりましたか、ルシファー?」


「はぁ……はぁ……。あぁ、手こずったがな」


「お疲れ様です」


 城の兵士はほとんどが倒され、城は赤く染まった。大陸に流れる川は血に変わり、その中心にはユリハが倒れていた。


「アルファ、ここからはお前の役だ。私の魔眼は性能も良くはない」


「あぁ、あなたの肉体の方は開眼してないですものね。私もこういうのは好きではないんですが」


「あぁ、苦労をかける」


「くッ……」


 アルファはユリハの顎を持ち上げ、その瞳を覗き込んだ。仮面の奥から覗く魔眼、それがユリハの瞳の奥、魂にまで侵入した。


「さて、魔天皇・ユリハよ。返事をしろ」


「……はい、ルシファー様……」


 ユリハの瞳は輝きを失い、アルファの魔眼が写されていた。思考能力を上書きされ、ありもしない忠誠を植え込まれている。


「さて……ヤツが来たら解呪されてしまうだろうが、しばし利用させてもらおう。さて、ユリハよ、——」


「……はい、承知しました」


「アルファよ。試しにD型を出そう」


「分かりました」


 世界が動くのは、数時間後のこと。


***


 時は現在、天空都市。


「くそッ……!」


「グランデュース!」


「……オレは平気です! それより受け身を……!」


 オレの身体……いや、オレ以外もここにある全てが、浮遊感に包まれていた。都市は崩れ、床と天井が混ざり合う。天空都市は雲の上の世界……一体、上空何メートルだ……!


「さて、あっしはお暇させていただきやしょうかね」


「ッ……待て!」


 開かれた空間転移のゲート、それを潜るとベータの姿は消えた。魔力を追うことはできるだろうが……いや、それどころではない。こんなことなら飛行魔法でも使えれば……。


「セリア! 火ィ借りるぞ!」


 刃は作らず、熱を極限まで低くする。魔力を纏わせ、性質を物質に近づけた。これで少しでも着地の衝撃を緩和できれば。


「『炎膜』!」


 拳を重力のはたらく方向に思い切り振り抜き、そこから低音の炎を噴き出した。崩れた地面を砕き、貫き。ずっと下方に見えた大地に膜を張った。


 古代都市は上に連なる天空都市に潰され、天空都市は重力に潰された。家屋も城も潰れ、空に住んでいたオレ達地上人も、翼人も全てが墜落した。


 都市だった瓦礫は、ちょうど聖都魔法学園の正面に散らばった。

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